陰影
その後、精霊術師であること、そしてルドベックの仲間であることが認められ、拍子抜けするほどあっさりと検問を通過することができた。
門をくぐると、目の前には左右を高い壁に挟まれた一本の通路が続いていた。
壁は人の背丈をはるかに超える高さがあり、その向こうに何があるのかはまったく見えない。
その長い通路を抜けた瞬間、目の前に壮大な街並みが広がる。
そこは、精霊教会を中心に栄える聖都パウロ。
街の中心、小高い丘の上には、神への信仰の象徴ともいえる白亜の大聖堂が堂々とそびえ立っている。
その姿は王城にも引けを取らないほど壮麗で、街のどこからでも見上げることができた。
教会を中心として大通りが放射状に伸び、それらを結ぶ同心円状の道路が街全体を美しく形作っている。
まるで精巧に描かれた魔法陣のように整然とした街並みは、神話の中から出てきたようだった。
「…すげぇ」
目の前に広がる神話のような光景に、思わず感嘆の声が漏れた。
「…あれが精霊教会の本部か?」
街の中央に堂々とそびえ立つ荘厳な建物を指差す。
「そうに決まっているだろ」
ルドベックが当たり前だと言わんばかりに答えた。
「じゃあ、あっちは?」
今度は教会の近くに建つ巨大な円形の建物を指差す。
「あれは闘技場だ」
「おお! 闘技場なんてあるのか!」
そのいかにも異世界らしい響きに胸が高鳴る。
きっと腕自慢の闘士たちが集い、互いの技を競い合う場所なのだろう。
そんな期待を膨らませていると、
「…」
ルドベックが突然黙り込んだ。
「どうした?」
不思議に思って尋ねると、
「…闘技場といっても、実際に行われているのは公開処刑のようなものなの」
後ろめたそうに、グラッドが代わりに口を開いた。
「公開処刑?」
「そう。罪人や奴隷、それに魔物を戦わせて見世物にしているのよ」
重たい口調で説明が続く。
「…え?」
思わず言葉を失う。
夢見ていた華やかな闘技場とは、あまりにもかけ離れていた。
「でも、その興行で得たお金は、犯罪や魔物の被害に遭った人たちへの救済金に充てられているの。だから、一概に否定できるものでもないのよ…」
「…」
その複雑な事情を聞かされると、何も言い返せなかった。
「最近は珍しい魔物が増えてきて、人間だけでは勝つのも難しくなっているって話も聞くわね」
グラッドは静かに付け加える。
だが、その話もまた、自分が思い描いていた異世界とはほど遠い現実だった。
自然と視線は足元へ落ちる。
そんな重苦しい空気を察したのか、グラッドが優しく微笑んだ。
「パウロにも良いところはたくさんあるわ。せっかくだし、少し街を見て回りましょうか」




