観光
グラッドの案内のもと、パウロの街をゆっくりと歩き始めた。
石畳の大通りには色とりどりの屋台が軒を連ね、焼きたての肉や香辛料の香ばしい匂いが風に乗って漂ってくる。
行き交う人々の笑い声も相まって、街全体が活気に満ち溢れていた。
「昔は、よくここで友達と買って食べてたなぁ…」
スピレアが目を細め、懐かしそうに呟く。
その表情は穏やかだったが、どこか寂しさも滲んでいた。
「つまり、買い食いってことか?」
楽しそうな単語だけを拾って尋ねる。
「せっかくパウロに来たんだし、少し楽しもうよ!」
三人へ向き直って提案すると、
「ふふっ。そうだね」
「それもそうね」
スピレアとグラッドは笑顔で頷いてくれた。
「本来の目的を忘れていないか」
一方で、ルドベックだけは呆れたようにこちらを見つめてくる。
相変わらず真面目だ。
「今は楽しむんじゃなかったのか?」
意地の悪い笑みを浮かべながら、以前ルドベックが同意した考えを言った。
「うっ…それは、そうだが…」
図星だったのか、ルドベックは気まずそうに視線を逸らした。
その様子を見ていると、
悪い奴ではないんだよな。
そんな感想が自然と頭に浮かぶ。
「…そうだな。今は楽しもうじゃないか!」
少しの沈黙のあと、ルドベックも渋々と言った様子で賛同してくれた。
店先では、炭火の上で串に刺さった鶏肉がジュウジュウと音を立てながら焼かれていた。
香ばしい匂いに誘われ、思わず足が止まる。
「おじさん、焼き鳥を四本ください」
気づけば、そう口にしていた。
焼き上がった串を受け取ると、三人へ差し出す。
「とりあえず、これでも食べようか」
スピレアとグラッドは嬉しそうに「ありがとう」と言って受け取る。
一方、ルドベックだけは少し怪訝そうな表情を浮かべていた。
「ルドベック、まさか『食べ歩きなんて行儀が悪い』とか言わないよな?」
先に釘を刺しておく。
「違う!」
ルドベックは即座に否定すると、財布を取り出した。
「代金はいくらだ?」
「いや、これくらい良いよ」
苦笑しながら答える。
「しかし、それでは…」
律儀に食い下がろうとするルドベックを見て、思わず笑ってしまう。
「じゃあ、出世払いでお願いしますよ。騎士様」
冗談交じりにそう言うと、
「貴様という奴は…」
ルドベックは握り拳を作り、肩を震わせた。
「はぁ…今に始まったことではないか」
やがて大きくため息をつくと、握っていた拳をゆっくり開く。
「…感謝する」
最後に、小さく礼を口にした。
その声は焼き鳥の香りに紛れてしまいそうなほど小さかった。
一方、こちらはルドベックの事なんぞ気にも留めず、焼き鳥にかぶりついていた。
表面は香ばしく焼き上がり、中は驚くほど柔らかい。
噛むたびに肉汁がじゅわっと口いっぱいに広がり、自然と頬が緩んだ。
「…何か言ったか?」
夢中で味わっていたせいで、最後の方はよく聞こえていなかった。
そう尋ねると、
「もういい!」
ルドベックはそっぽを向き、そのまま勢いよく焼き鳥にかぶりついた。
相変わらず怒るのが好きなんだなと思い苦笑しながらその様子を見ていた。
その後は、パウロの街で食べ歩きをしていた。
通りには大道芸人が芸を披露し、その周りには多くの人だかりができていた。
子どもたちは目を輝かせながら拍手を送り、大人たちは笑顔で足を止める。
露店では果物や工芸品、色鮮やかな布が売られ、人々は思い思いに買い物を楽しんでいた。
「平和だな…」
自然とそんな言葉が漏れる。
しばらく歩いていると、開けた広場へとたどり着いた。
広場の中央には大きな噴水があり、勢いよく水を吹き上げている。
降り注ぐ水しぶきは陽の光を受けてきらきらと輝き、まるで宝石のようだった。
周囲では子どもたちが楽しそうな声を上げながら走り回っている。
休憩がてら、近くのベンチへ腰を下ろす。
手には、先ほど屋台で買った桃のジェラート。
冷たい甘さを味わいながら、これからの予定について話し合う。
「明日はどうするんだ?」
尋ねると、グラッドが答えた。
「明日は、私は大図書館へ行くわ。だから、アスターちゃんたちは今日みたいに街を見て回っていてちょうだい」
「じゃあ、明日の案内はルドベックちゃんにお願いね」
そう言って、グラッドはルドベックへ視線を向ける。
「どこを回ればいい?」
ルドベックはすぐさま尋ね返した。
「どこって…大図書館とか騎士団の詰所とか、精霊教会の本部とか。今日見て回れなかった場所を案内してあげればいいのよ」
グラッドは少し呆れたように笑う。
「なるほど。それなら任せてくれ」
ルドベックは納得したように頷いた。
どうやら、案内役という役目を任されたことを少し不安に感じていたようだった。




