灯篭祭
翌朝。
外から聞こえてくる人々の声で自然と目が覚めた。
「何かあったのか?」
気になって宿の窓の外を見る。
すると、街のあちこちで人々が忙しそうに動き回っていた。
木々の間には飾り付けが施され、屋台のようなものまで並び始めている。
どうやら、何か祭りの準備をしているようだった。
少し気になりながらも、出発の時間が近いことを思い出す。
待ち合わせ場所へ向かうと
そこには、すでにリリー、アイリス、グラッド、ルドベック、スピレア、ローレルの姿があった。
「今日は何かあるのか?」
待ち合わせ場所にいたリリーへ声をかける。
リリーはこちらを見ると、紙へ文字を書き始めた。
『忘れちゃってたんだけど、今日は灯篭祭の日だったみたい』
差し出された紙を見る。
その文字の最後には、少し寂しそうな雰囲気が滲んでいた。
「灯篭祭?」
首を傾げると、リリーは頷いて続きを書く。
『精霊様や森、それからご先祖様への感謝を伝える日なの』
『それと、故人を偲ぶ日でもあるんだよ』
「故人を…偲ぶ…か」
その言葉を聞いた瞬間、頭に浮かんだ顔があった。
カルタム。
弔いをきちんと行えてなかったな…
そう思って、ふと視線を向ける。
「グラッド…」
名前を呼ぶだけで、グラッドは何を言いたいのか察したようだった。
「わかっているわよ」
グラッドは小さく笑う。
「アスターちゃんが来る前に、皆で話していたのよ」
「カルタムちゃんのこともあるし…」
少し間を置いて、グラッドは仲間たちを見る。
「出発は一日遅らせましょうか」
その問いに、誰も反対する者はいなかった。
その後は、リリーやアイリスと一緒に祭りの飾り付けを手伝った。
街中を彩る飾りが風に揺れ、人々の表情には自然と笑みが浮かんでいる。
やがて日が沈み、辺りが夜の闇に包まれる頃
灯籠祭が始まった。
屋台の明かりが消える。
家々の灯りも、一つ、また一つと落とされていく。
街は静寂に包まれた。
そんな暗闇の中、人々は手にした灯籠へ静かに火を灯していく。
ぽつり。
また、ぽつり。
温かな灯が夜の闇に浮かび上がる。
火を灯した灯籠は、一つずつ精霊教会を囲むように並べられていく。
やがて、無数の灯が教会を優しく包み込んだ。
誰一人として言葉を発しない。
全ての灯籠が並べ終えられると、人々は静かに目を閉じ、故人への祈りと感謝を胸に黙祷を捧げた。
数分間の黙祷を終えると、静寂に包まれていた街へ少しずつ人々の話し声が戻り始めた。
その穏やかなざわめきを合図にするように、屋台の明かりが一つ、また一つと灯っていく。
静けさに包まれていた灯籠祭は、再び温かな賑わいへと姿を変えていった。
「これで…カルタムも、少しは安らかに眠れたらいいな」
灯籠の明かりを見つめながら、ぽつりと呟く。
「そうね」
隣に立っていたグラッドが、優しく微笑んだ。
「カルタムちゃんの想いも一緒に連れていきましょう」
その言葉に、静かに頷く。
揺らめく灯籠の明かりは、まるでカルタムが旅路を見守ってくれているかのように、穏やかに夜を照らしていた。




