夢
「あら?」
目の前に、緑色の髪をした女性が立っていた。
夢の中で、イズーナと名付けられていた女性。
「いらしたのですか?」
柔らかな笑みを浮かべながら、こちらへ語りかけてくる。
周囲を見回す。
見覚えのある景色。
巨大な木々が立ち並ぶ森の中。
ただ、どこか違和感があった。
今のイズーナの街よりも、木々が小さいように感じる。
それでも、ここがイズーナの街なのだと直感した。
「いらっしゃる前に、申し付けてくださればよかったのに」
イズーナは少し頬を膨らませ、不満そうに続ける。
「なぜだ?」
不思議と、自然に言葉が出ていた。
「ふふっ。それはですね」
イズーナはいたずらっぽい笑みを浮かべる。
そして
パチン。
指を鳴らした。
その瞬間。
足元の大地が、鮮やかな赤色に染まっていく。
一輪。
また一輪。
気付けば、辺り一面が真っ赤な花で埋め尽くされていた。
まるで、自然が作り出した赤い絨毯。
「こうやって、お迎えしましたのに」
イズーナは嬉しそうに笑う。
その言葉を聞いた瞬間
「アスター! アスター!」
身体を揺さぶられる感覚がした。
「…っ」
急激に意識が浮上する。
ゆっくりと目を開けると、そこには心配そうな表情を浮かべたスピレアがいた。
「大丈夫?」
不安そうに顔を覗き込みながら尋ねてくる。
「大丈夫だよ。ただ、少し疲れが溜まっていただけだから」
そう答えながら、先ほどまで見ていた光景を思い返す。
あの夢。
精霊。
魔獣。
魔物落ち。
すべてがどこかで繋がっているような気がする。
しかし、まだ情報が足りない。
そう考え、口には出さなかった。
「本当に?」
スピレアが疑うような目を向けてくる。
「隠し事はなしだよ?」
「何も隠してないよ。本当に大丈夫だからさ」
胸に小さな罪悪感を覚えながらも、そう答えた。
「…」
スピレアは少しだけ不満そうな顔をして疑いの目を向け続ける。
「と言うか、やっといつも通り喋ってくれるようになったんだね」
最近、少し距離を感じていたスピレアと前のように話せるようになったのが嬉しくてそう言った。
「あっ…」
スピレアは顔を赤くする。
そして、何も言わずに立ち上がって精霊の間を出て行った。
「もう祈りも捧げ終わったし、御業も授かったから早く行くよ」
布越しにスピレアが急かしてくる。
「はぁ…」
その様子を見ていたグラッドの呆れたようなそれでいて優しいため息が響いた。




