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気がかり

それからしばらく賑やかな時間を過ごした後、一行はハラリトの街を後にした。

再び山道を進み、次なる目的地であるイズーナを目指す。

道中の景色を楽しみながら歩みを進めていたが、やがて太陽が西の空へ傾き始めた。

これ以上進むのは難しいと判断し、開けた平地を見つけたところで野営をすることになった。


ワイワイと、いつものように賑やかな夕食の時間が続く。

しかし、その中で一人だけ。

グラッドは、どこか思い詰めたような表情を浮かべていた。

「グラッド、どうかしたか?」

その様子が気になり、声を掛ける。

「…大丈夫よ。少し考え事をしていただけ」

グラッドはハッとしたように顔を上げると、いつもの優しい笑みを浮かべた。

「ダメだよ、グラッドさん!」

その時、スピレアが少し怒ったような声で割って入る。

「もう隠し事はなしにしようよ!」

「あら?」

グラッドは少し意地悪そうに目を細めた。

「アスターちゃんの真似かしら?」

「…」

その瞬間。

スピレアの顔が一気に赤く染まる。

まるで、効果音が聞こえてきそうな勢いだった。

そして何も言えず、俯いてしまう。

「…当たりだったのね」

グラッドは苦笑を浮かべながら呟いた。

「でも…そうね」

少し間を置き、表情を引き締める。

「隠し事は無し、だものね…」

そう呟くと、覚悟を決めるように大きく息を吸った。

そして、ゆっくりと皆へ向き直る。

「アタシの話を聞いてくれるかしら?」

先ほどまでの柔らかな雰囲気は消えていた。

グラッドの瞳には、決意の光が宿っていた。

「まずは、アタシの過去から話すわ」


そこからグラッドは、自らの過去を包み隠さず語り始めた。

誰も口を挟まず、ただ静かに耳を傾ける。

「…ここからが本題なのよ」

その一言で、場の空気がさらに張り詰めた。

「アタシが体験した二度の魔物落ちは、どちらもエヒメアで起きた出来事だった」

グラッドは一人ひとりの顔を見渡しながら続ける。

「なのに、どうしてガーベラは火行の技を使い、カルタムちゃんは土行の技を使っていたのかしら?」

誰も答えられない。

「それに、噂と違うことがあったわ」

グラッドは険しい表情を浮かべた。

「昔エヒメアで出会った魔獣も、この前アグニスで出会った魔獣も…まるで会話をしようとしていたの」

「それは、教典にも書かれているぞ」

ルドベックが静かに口を開く。

「魔獣は人の言葉を使い、精霊術師を惑わす、と」

「ええ。それはアタシも知っているわ」

グラッドは頷く。

「でも、ただ惑わそうとしているだけじゃなかったわ」

グラッドはゆっくりと言葉を紡ぐ。

「まるで、自分の意思を伝えようとしているように感じたの」

その言葉に、誰も反論できなかった。

「だから、ずっと気になっているのよ」

そう言うと、グラッドは指を折りながら、自分の抱えている疑問を整理するように話し始めた。

魔物落ちが起きた場所は同じなのに、支配していた属性が一致していないこと。

魔獣は噂とは違い、会話が成り立ちそうなほど明確な意思を持っていたこと。

御業を使った時、不思議な夢を見ることがあること。

そして、その夢と魔獣には何らかの繋がりがあるように思えること。

さらに、魔獣と魔物落ちそのものも、無関係とは思えないこと。

「…以上が、今アタシが引っ掛かっていることよ」

グラッドはそう締めくくり、静かに皆の反応を待った。

「ルドベック、教典に何か書かれていないのか?」

重苦しい空気の中、口を開いた。

こういう時、一番頼りになるのは教典オタクのルドベックだ。

「…分からない」

ルドベックは俯いたまま、小さく首を振る。

「そんなことは…教典には書かれていないはずなんだ」

その声には、珍しく自信がなかった。

「だったら、調べるしかないかぁ」

ルドベックでも分からないのなら、この場で答えは出ない。

そう思い、小さくため息をつく。

「アタシも、その意見には賛成よ」

グラッドが静かに頷いた。

「だから、イズーナの後は少し寄り道になるけれど、パウロへ行かないかしら?」

その提案に、一同が考え込む。

すると――

「あー、あーしはパウロ嫌だよ」

ローレルが露骨に嫌そうな顔をした。

「そんなこと気にしないで、パパッとサカリウムに行こうよ」

子どものように頬を膨らませる。

「それに…退学処分くらってるし、クラスメイトに会うの気まずいんだよね…」

どうやら、こちらが本音らしい。

「ローレル! 貴様という奴は!」

ルドベックがすぐさま立ち上がる。

「今は重要な話をしているのだぞ!」

「いやいや! 気まずいものは気まずいって!」

二人の口論は、あっという間に白熱していった。

このままでは終わりが見えない。

そう思った、その時。

リリーが一枚の紙を差し出した。

『だったら、ローレルちゃんは私とアイリスと一緒に先にサカリウムへ向かう?』

「えっ? 良いの!?」

ローレルの表情が一気に明るくなる。

リリーは再び紙にペンを走らせた。

『今は後衛の魔法使いがいないから、私たちもローレルちゃんが一緒だと嬉しいな』

そう書くと、にっこりと微笑む。

「あーし、リリちゃんたちについて行く!」

ローレルは迷うことなく頷いた。

「仕方ないわね」

グラッドは苦笑を浮かべる。

「じゃあ、イズーナを出た後は一度別れて、それぞれの目的地へ向かいましょう」

「サカリウムで合流、ということで決まりね」

その一言で、今後の予定が決まった。

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