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本当の理由1

「…」

スピレアは何かを言おうとした。

けれど、結局言葉にすることはできず、ゆっくりと口を閉じる。

二人の間には、波が寄せては返す音だけが響いていた。

夜の海風が頬を撫でる。

足を崩し、ただ静かに波の音へ耳を傾ける。

そんな時間が、しばらく続いた。

「…お互いさ、隠し事はなしにしようよ」

重く沈んだ空気を断ち切るように、口を開いた。

「…うん。そうだね」

スピレアも小さく頷く。

「ふぅ…」

彼女は一度、大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出した。

そして、覚悟を決めたように語り始める。

「怖いの…」

スピレアは自分の膝を強く抱きしめ、身体を小さく丸める。

「怖い? 旅が?」

「ううん…」

首を横に振る。

「私が魔物落ちしちゃって…アスターやグラッド、ルドベックを傷つけちゃうんじゃないかって…」

震える声で、少しずつ言葉を紡いでいく。

「それが、不安で…怖いの」

その姿を見て、胸が締め付けられた。

何か言葉を掛けなければいけない。

でも、どんな言葉が正しいのか分からなかった。

必死に考えて、出てきた答えは…

「だったら…逃げちゃえばいいんじゃないかな?」

「えっ……?」

予想していなかった言葉だったのか、スピレアが目を丸くする。

「だから、精霊術師なんて辞めてさ」

続ける。

「みんなでバルダックに帰ろうよ」

「でも…」

スピレアは困ったように俯いた。

「グラッドもルドベックも、きっと反対しないよ」

「…」

「ローレルだって、なんだかんだ文句を言いながら許してくれると思う」

少しでも安心させたくて、言葉を重ねる。

「それに、帰り道はもっと色んな場所を見てさ。楽しい思い出をいっぱい持って帰ろうよ」

そこまで言った時だった。

スピレアの頬を、再び涙が伝う。

「スピレア…?」

どうしていいのか分からず、名前を呼ぶことしかできなかった。

「うん…」

スピレアは涙を流しながら、それでも笑顔を作る。

「良い考えだね。私も…そうしたいよ」

必死に涙を拭いながら、震える声で続ける。

「でも…できないんだよ」

「どうして?」

尋ねると、スピレアは俯いた。

そして、消え入りそうな声で呟く。

「私が逃げたら…」

一度、言葉を詰まらせる。

「お父さんとお母さんが…死んじゃうから…」

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