夜中の浜辺
何やら、複数人の話し声が聞こえる。
遠くから響くような、どこか懐かしい声だった。
「じゃあ、名前を発表する」
一人の男の声が響いた瞬間、周囲から歓声が上がる。
「アグニス、エヒメア、イズーナ、サカリウム、ビワリアだ」
その言葉と共に、五人の姿が浮かび上がる。
赤髪のツインテールを揺らす少女。
人の形をした岩石のような大男。
艶やかな緑色の長髪を持つ、美しい女性。
鎧武者を思わせる装いの男性。
眠たげに目を擦る、水色の髪をした天然パーマ気味の少女。
「…可愛くなくない?」
赤髪の少女が、頬を膨らませて不満そうに呟く。
「わたくしは、主から頂いた名前に文句はありませんよ」
緑髪の女性は、嬉しそうに微笑む。
「サカリウム、でござるか…?」
鎧武者の男性は、どこか納得できない様子で首を傾げた。
「ふわぁ…僕は何でもいいよ」
水色髪の少女は大きなあくびをすると、そのまま船を漕ぎ始める。
「我がエヒメアという名はいかがなものでしょうか?」
岩石のような大男が、おずおずと手を挙げた。
「愛媛と守護者っぽい感じでエヒメアだ。可愛くていいだろ?」
男は自信満々に答える。
「可愛いから問題なのです!」
大男はすぐさま反論した。
「もう少し、こう…力強い名前にしていただけませんか?」
「だったら、ツチガルド!」
男は何かを思いついたように声を上げる。
「エヒメア=ツチガルドにしよう!」
「ツチガルドでございますか…?」
大男は、やはり少し不満そうに呟いた。
その時。
赤髪の少女が手を挙げ、何かを言おうとする。
けれど、その声を聞く前に――
意識が遠のいていった。
そして、目が覚めた。
変な夢を見た。
そのせいか、寝汗で服が張り付き、どうにも気分が悪い。
気分転換に海風でも浴びようと思い、グラッドとルドベックを起こさないよう、そっとロッジを抜け出した。
夜の浜辺を歩きながら、先ほど見た夢を思い返す。
「アグニス、エヒメア、イズーナ、サカリウム、ビワリア…それにツチガルド。全部、精霊教会がある街や山の名前だよな?」
独り言を漏らし、小さく首を傾げる。
「…変な夢だったな」
そんなことを考えながら歩いていると、少し先の砂浜に人影が見えた。
そこには、体操座りをして海を眺めているスピレアの姿があった。
「何しているの?」
後ろから声を掛けると、スピレアは驚いたように振り返る。
「何でもないよ」
そう答えた彼女の瞳は赤く腫れ、頬には涙の跡が残っていた。
「…隣、いい?」
その姿を見て、放っておくことはできなかった。
「うん」
スピレアは小さく頷いた。
隣に座ると、しばらく波の音だけが響いた。
「カルタムの件は、本当にごめん」
罪悪感から逃げず、正座をしてまっすぐスピレアを見る。
「隠すつもりもなかったし、仲間外れにするつもりもなかったんだ」
「ふふっ…それはもう大丈夫だよ」
スピレアは優しく微笑んで、首を横に振る。
「ありがとう」
その言葉に、少しだけ胸の重さが取れた。
「じゃあ…どうして泣いていたの?」
カルタムのことではないのなら、理由が分からなかった。
尋ねると、スピレアはしばらく黙り込む。
そして、小さく口を開いた。
「それはね…」




