バーベキュー
日が完全に沈むと、空は深い藍色へと変わり、無数の星々が静かな海を照らし始めた。
寄せては返す波の音だけが、夜の浜辺に穏やかに響いている。
ロッジの前では炭火が赤く熾り、時折ぱちりと火の粉が夜空へ舞い上がった。
網の上では肉や魚介、色鮮やかな野菜が香ばしい音を立て、立ち上る煙には潮風と炭の香りが混ざり合う。
そんな中、準備を終えたバーベキューが始まった。
「かんぱーい!」
それぞれが好きな飲み物を手に取り、グラスを軽く打ち合わせる。
「アスちゃん、そこのエビ取ってよ」
「ローレル、野菜もちゃんと食べているか?」
「グラッドさん、お酒は程々にね」
「…うっ。分かったわよ」
グラッドは少し不満そうな顔をしながらも、渋々頷いた。
「手入れの行き届いた良い剣だな」
アイリスがルドベックの剣を眺める。
「だろう? 私は毎日欠かさず手入れをしているんだ。」
ルドベックが誇らしげに語る。
「それなのに、あの不審者ときたら…」
その後、どこか恨めしそうにこちらへ視線を向けた。
もちろん、聞こえないふりをした。
そんな他愛のない会話を交わしながら、皆で食事を楽しんだ。
「ところで、アイリスとリリーはずっと二人で旅をしているのか?」
楽しい時間が続き、少し酒が回ってきた頃。
何気なく、二人へ話を振った。
「…」
すると、リリーが一瞬だけ困ったような表情を浮かべる。
「違うぞ」
その変化に気づいたのか、気づいていないのか。
アイリスは食事を続けながら、静かに口を開いた。
「元々は、前衛の私とサポート役のリリー。それから後衛を担当する魔法使いがいたんだ」
「いたんだ?」
アイリスの言葉が過去形だったことに気づき、首を傾げる。
「貴公らと出会ったあの日。そう、あの魔物落ちした精霊術師を討伐した日だ」
アイリスは、食べ終えた串を手に持ちながら説明を続けようとした。
その瞬間。
賑やかだった場の空気が、凍りついた。
「…やっぱり、カルタムだったの…?」
スピレアが、震えるような声で尋ねる。
その声には、深い悲しみが滲んでいた。
「…もしかして、知り合いだったのか? すまない…」
場の空気が変わったことを察したアイリスが、申し訳なさそうに肩を落とす。
「ううん…大丈夫」
スピレアは悲しげな笑みを浮かべ、小さく首を横に振った。
「カルタムだったんだね?」
そして、今度はこちらへ視線を向ける。
その視線を受け止めることができず、罪悪感から逃げるように目を逸らした。
グラッドも、ルドベックも同じだった。
ただ一人、ローレルだけが何かを考えるように目を細めてスピレアを見ていた。
「みんな…私が悲しまないように、黙っていてくれたんだよね?」
スピレアが、弱々しい声で続ける。
「でも…」
一度言葉を詰まらせる。
「私だけ仲間外れにされているみたいで…そっちの方が、私は悲しいよ」
その瞬間。
スピレアの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
アイリスが慌てて隣へ移動し、優しく背中をさする。
「…ごめん」
気まずさから逃げるように謝罪の言葉を口にした。
「ううん。いいの」
スピレアは涙を拭いながら、無理に笑顔を作る。
「みんなの優しさは、ちゃんと伝わっているから」
そう言って、もう一度首を横に振った。
「…でも、これからは私も仲間に入れてね」
溢れ続ける涙を手のひらで拭いながら、懸命に言葉を紡ぐ。
その姿を見て、胸が締め付けられた。
「ああ、もう隠し事はしないって、約束するよ」




