隠し事
グラッドの過去の詳細につきましては
短編小説
『 街の英雄と呼ばれた男がアタシになるまで』
をご参照ください。
グラッドは、自らの過去を静かに語った。
かつてガーベラと共に旅をしていたこと。
しかし、ガーベラが魔物落ちしてしまったこと。
そして、最後は自らの手で、そのガーベラにとどめを刺したこと。
グラッドは、そのすべてを包み隠さず話してくれた。
しばらくの間、重苦しい沈黙が場を支配した。
「…つまり、カルタムも魔獣の言葉に耳を貸し、魔物へと堕ちてしまったということか?」
沈黙を破るように、ゆっくりと口を開いた。
昼間に戦った魔物とカルタムについて、どうしても知っておかなければならなかった。
「…そういうことよ」
グラッドは俯いたまま、悔しさを押し殺すように答えた。
「何だよ、それ…」
あまりにも理不尽な現実に、かける言葉が見つからない。ただ、小さくそう呟くことしかできなかった。
その時、不意に嫌な予感が胸をよぎる。
「…スピレアも、そうなる可能性があるのか?」
考えるより先に、その言葉が口をついて出た。
その瞬間だった。
グラッドが勢いよく顔を上げる。
その瞳には、これまで見たこともないほどの怒りと憎しみが宿っていた。
「ひっ…!」
あまりの剣幕に思わず後ずさり、そのまま尻もちをついてしまう。
「…ごめんなさい」
グラッドは我に返ったように目を伏せ、申し訳なさそうに謝った。
「…もちろん、あり得るわ」
そう呟くと、震える右手で拳を作り、それを見つめる。
そして、その拳を左手で強く握り締めながら、言葉を続けた。
「もし、そうなった時は…アタシが、とどめを刺すわ」
震える声とは裏腹に、その決意だけは揺るがない。
「それが、精霊術師と旅をする者の務めなの」
グラッドはゆっくりと顔を上げ、はっきりと言い切った。
その瞳には、何ものにも揺るがない固い覚悟が宿っていた。
「…何も考えてなくて、ごめん」
グラッドの覚悟を目の当たりにし、自分の不用意な発言と自身の旅への同行理由の軽さを恥じた。
申し訳なさでグラッドと目を合わせられず、視線を足元へ落とした。
「気にしなくていいわよ」
優しい声が聞こえた。
顔を上げると、グラッドが立ち上がり、こちらへ歩み寄ってくる。
先ほどまでの険しい表情は消え、いつもの穏やかな笑みが戻っていた。
「それに、アスターちゃんにしかできないことがあるのよ」
そう言うと、グラッドはこちらの頭をわしゃわしゃと撫で回した。
「俺にしかできないこと?」
思い当たる節など何もない。
そんなチート能力が目覚めた覚えもなく、首を傾げながらグラッドを見上げる。
グラッドは頭から手を離すと、そのまま歩き始めた。
「アタシみたいに後悔しないよう、スピレアの支えになってあげなさい」
数歩先で立ち止まり、振り返る。
背後では、澄み渡る夜空に満月が静かに輝いていた。
グラッドはその月を背に、不敵な笑みを浮かべながら俺を指差す。
「…できるだけ、やってみるよ」
自信なさげにそう答える。
「やってもらわないと困るのよ」
グラッドはいたずらっぽく笑い、こちらに向かって手を差し伸べた。
「旅が終わるその日まで、スピレアを支えてみせるよ」
差し出された手を握る。
グラッドに引き上げてもらいながら、そう誓った。
「ネックレス、明日ベルベンちゃんに返したいのだけど、預かってもいいかしら?」
グラッドが思い出したように口を開いた。
「じゃあ、頼むよ」
懐からカルタムのネックレスを取り出し、グラッドへ手渡す。
「これは、アスターちゃんがちゃんと持っていなさい」
そう言ってグラッドは、半分に分かれた五芒星のペアキーホルダーを手にそっと乗せてきた。
カルタムの想いを受け継ぐように、そのキーホルダーを握り締めた。
このキーホルダーは、シロードに付けておこう。
「ああ、それと伝え忘れていたのだけど」
グラッドは何かを思い出したように人差し指を立てる。
「ベルベンちゃんのこともあるから、出発は明後日よ」
「ってことは、明日は街でゆっくりしていいのか?」
思わず胸が躍る。
街をのんびり見て回れると思うと、自然と期待が膨らんだ。
「アスターちゃんは、スピレアと街を回ってきなさいね」
そう言うと、グラッドは小さな包みをこちらへ放り投げた。
慌てて両手で受け止める。
見た目以上にずっしりとした重みが掌に伝わった。
「…何、これ?」
不思議そうに包みを見つめていると、グラッドはにやりと笑う。
「お小遣いよ」




