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弱点発覚

「スピレア、遅かったわね」

何事もなかったかのように、グラッドがスピレアのもとへ歩み寄り、優しく背中をさする。

「ありがとう、グラッド。でも…ちょっと遅かったみたい」

スピレアは少し申し訳なさそうに微笑みながら、乱れた呼吸を整えた。

その時だった。

「…すまない」

静かな声が響く。

振り向くと、先ほどまで魔物と渡り合っていた小柄な女性剣士が立っていた。

艶のある黒髪を高い位置で束ねた長いポニーテール。

黒い瞳には揺るぎない意志が宿っている。

黒を基調とした着物風の上衣に、動きやすい袴。

足元は足袋を履き、腰には一本の刀。

言うなれば、女忍者だ。

「救援、かたじけない」

そう言うと、忍者は深々と頭を下げる。

「持ちつ持たれつよ。気にしないで」

グラッドが柔らかな笑みを返すと、女性はゆっくりと顔を上げた。

「感謝する。私はアイリス」

そう名乗ると、隣に立つ少女へ視線を向ける。

「そして、こっちが精霊術師のリリーだ」

紹介された少女も、一歩前へ出て丁寧に頭を下げた。

リリーは鮮やかな緑色の長い髪と、同じ色の瞳が印象的だった。

身にまとっているのは、緑を基調とした和装。

穏やかな雰囲気をまとった精霊術師だった。

リリーは懐から小さな手帳を取り出すと、さらさらと何かを書き込み、こちらへ見せてきた。

「すまない。彼女は声を出せないんだ…」

申し訳なさそうにアイリスが説明をする。

おそらく文字なのだろう。

だが、読めそうで読めない。

…どうやら、チート能力のバグは未だに健在らしい。

「なるほど、そういうことね」

書かれた内容を読んだグラッドが納得したように頷く。

「気にしなくていいわよ。さっきも言ったけど、持ちつ持たれつなんだから」

そう優しく微笑むと、続けてリリーへ視線を向けた。

「それに、さっきの木の根。リリーの御業でしょ? 本当に助かったわ。ありがとう」

感謝を伝えられたリリーは、ぶんぶんと慌てて首と手を振る。

そして再び手帳へ文字を書き込み、皆へ見せた。

…やはり読めない。

周りは普通に内容を理解し、会話を続けている。

読めないのは、どうやら一人だけらしい。

言いようのない疎外感が胸をよぎる。

そっとスピレアの隣へ歩み寄り、小声で耳打ちした。

「…なんて書いてあるんだ? 読めないんだ」

「へぇ、アスちゃん、文字読めないんだ」

ぼそっと囁いたつもりだった。

だが、いつの間にか近くにいたローレルの耳には、しっかり届いていたらしい。

新しいおもちゃを見つけた子どものような笑みを浮かべながら、こちらへ身を乗り出してきた。

「アスちゃんって、文字も読めないなんて…もしかして、超絶おバカさん?」

ローレルが口元を隠しながら、いたずらっぽく笑う。

その一言に、思わずカチンときた。

「日本語なら読める!」

反射的に言い返す。

「はぁ…日本語なんて古代文字読めてどうすんの?」

ローレルは肩をすくめ、大げさにため息をついて呆れたように言った。

「…そうなのか?」

そこまで言われると、さすがに自信が揺らぐ。

視線を落とし、不安げに問い返した。

「ま、しゃーないか」

落ち込んだ様子を見たローレルは、少し困ったように後頭部をかきながら肩をすくめる。

「あーしが精霊文字、教えたげる。」

そう言うと、子どもをあやすようにぽんぽんと頭を叩きながら続けた。

「というわけで、スピちゃん。お祈りしてきなよ。その間に、あーしがアスちゃんに文字を教えとくから」

ローレルは教会を指差しながら、軽い調子で言った。

「えっ…でも…」

スピレアは不安そうにこちらとローレルを見比べ、言葉を詰まらせる。

「大丈夫よ、スピレア。相手はローレルよ?」

グラッドが穏やかな口調で背中を押す。

「…うん。そうだよね」

まだ少し心配そうではあったが、スピレアは小さく頷いた。

「それじゃあ、行ってくるね」

リリーとアイリスへ何度も頭を下げると、スピレアは教会へ向かって小走りで駆けていく。

その後ろを、グラッドとルドベックが追いかけた。

「さて、と」

皆が離れていくのを見届けたローレルが、にやりと口角を上げる。

嫌な予感がした。

さりげなく二人の後を追うふりをして、その場を離れようとする。

「アスちゃんは居残りね」

しかし、肩をがしっと掴まれた。

振り返ると、ローレルが悪戯っぽい笑みを浮かべている。

「今から楽しいお勉強会、始めよか?」

逃げ道は、なかった。

こうして、半ば強制参加の精霊文字講座が開幕した。

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