表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/94

戦闘

勢いだけで戦場へ飛び込んだことを、すぐに後悔した。

目の前に広がる石畳の広場は、すでに原形を留めていない。

砕けた石畳があちこちに散乱し、巨大な岩塊が突き刺さる。

その隙間からは、何本もの太い木の根が地面を突き破っていた。

一歩踏み出す。

ガラッ

崩れた石が足元で滑り、体勢が大きく揺れる。

次の瞬間、頭上を岩塊が轟音とともに通り過ぎた。

思わず身を縮める。

さらに前方では木の根が次々と隆起し、さっきまで地面だった場所が一瞬で壁や足場へと姿を変えていく。

視線を動かすたびに戦場の景色が変わる。

環境は最悪だった。

魔物の猛攻と木の根の魔法によって、まともに走ることさえ難しい。

考えなしに飛び出すんじゃなかった。

そんな後悔が頭をよぎる頃には、もう戦場のど真ん中まで踏み込んでしまっていた。

「うわっ!」

飛来した岩塊を咄嗟に跳び越える。

宙へ身を投げ出した、その瞬間だった。

足元の石畳を突き破り、一本の木の根が勢いよくせり上がる。

まるで着地点を読んでいたかのような絶妙な位置だった。

「っ!」

驚きながらも、その根を踏み台にしてさらに前へ跳ぶ。

すると、次の着地点にも木の根が伸びてくる。

一歩。

二歩。

三歩。

木の根が次々と足場を作り、戦場の上へ押し上げていく。

「…なるほど!」

思わず口元が緩んだ。

さっき見た女性剣士ほど鮮やかではない。

それでも、この足場があるなら十分戦える。

砕けた石畳も、隆起した岩も、もう足を取られることはない。

最悪の足場とはおさらばだ!

そう確信した、その時だった。

「アスちゃん!」

横合いからローレルの声が飛ぶ。

「木行以外は使わないでね!」

戦場を駆け抜けながら、こちらへ振り返ることなく叫ぶ。

その一言だけを残し、ローレルは再び魔物へ向かって駆け出していった。

視線を魔物へ戻す。

戦況は、一瞬で変わっていた。

広場の中央では、グラッドとルドベックが先ほどの剣士と合流し、三人で魔物を翻弄している。

剣士は木の根を蹴り、壁を駆け、空中を舞う。

縦へ、横へ。

まるで重力など存在しないかのように魔物の周囲を飛び回り、その視線を引きつけていた。

その一瞬の隙を逃さず、ルドベックの鋭い斬撃が魔物を襲い、鋭い金属音が広場へ響く。

反対側からは、グラッドの重い拳が叩き込まれ、鈍い衝撃音が響く。

さらに後方。

ローレルが周りを移動しながら魔物に手をかざす。

放たれた魔法は一本の緑の光となり、弩弓の矢のような速度で一直線に魔物へ飛んでいく。

四方向から絶え間なく襲いかかる猛攻。

まるで幾度も連携を重ねてきた熟練のパーティのように、それぞれの攻撃が噛み合っていた。

だが、その猛攻でも決定打にはならない。

魔物は大きく後ろへ跳ぶと、ゆっくりと両腕を左右へ広げた。

嫌な予感がする。

次の瞬間。

バァンッ!

両腕が爆ぜた。

砕け散った無数の岩片が、散弾のように広場全体へ降り注ぐ。

「まずい!」

本能が危険を叫ぶ。

咄嗟に足元の木の根へ剣を突き立てる。

木行の力を剣に流す、目の前へ分厚い木の壁が一気にせり上がった。

ドドドドドッ――!

岩片が壁へ激しく叩きつけられ、耳をつんざく衝撃音が響く。

木片と岩片が舞う。

やがて、雨のような衝突音が止んだ。

今だ!

木の壁を蹴り、一気に飛び出す。

視界の先では、剣士、グラッド、ルドベックも同じ判断を下していた。

四人が四方向から、ほぼ同時に魔物へ迫る。

グラッドの拳が黄色く輝く。

土行を宿した重い一撃。

ルドベックの剣が水色の光をまとい、鋭い軌跡を描く。

水行の斬撃。

剣士の刃は銀色に輝き、金行の力をまとって一直線に振り抜かれる。

そして、木行の力を剣へ込め、そのまま振り下ろした。

これで終わりだ!

そう確信した、その瞬間だった。

魔物の肩口から、新たな岩の腕が次々と生え出す。

四本の腕が、それぞれの攻撃を正面から受け止めた。

金属と岩がぶつかり合い、激しい火花が散る。

だが、俺の剣だけは違った。

木行をまとった刃が、岩の腕へずぶりと沈み込んでいく。

「っ!」

そのまま力任せに振り抜く。

岩の腕が宙を舞い、轟音を立てて石畳へ転がった。

四人は同時に後方へ跳び、一度大きく間合いを取る。

互いに息を整えながら、魔物の動きを見据えた。

「相剋の関係って、本当に便利ね…」

切り落とされた岩の腕を見つめ、グラッドが眉をひそめて呟く。

そして、戦場全体を見渡しながら素早く指示を飛ばした。

「アスターちゃんを近接の主軸に、ローレルを遠距離支援の主軸にして戦うわよ!」

剣士とルドベックは一瞬だけ視線を交わし、小さく頷く。

「えー、アスちゃんだけで十分っしょ」

後方にいたローレルが、両手をひらひらと振りながら頬を膨らませる。

指先には、五行の力を宿した長いネイルが妖しく輝いていた。「ローレル」

グラッドが振り返り、優しく微笑む。

「頼りにしているのよ」

その一言に、ローレルは口を尖らせたまま視線を逸らす。

「…はぁ。今回だけだかんね」

大きくため息をつくと、ネイルを軽く鳴らし、戦闘態勢を整えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ