荷台
敵襲を退けてからしばらくして。
船は大きく揺れながらも、無事にエヒメアの港へ到着した。
「ありがとうよ、旅の方! これからも気をつけてな!」
桟橋では、ジェノセキで迎えてくれた船乗りが大きく手を振りながら見送ってくれる。
手を振り返し、船を降りた。
潮の香りを背に受けながら港をあとにし、一行は次の目的地へ向かう馬車の荷台へと乗り換えた。
「んで? 何かあった感じ?」
目の前に座る船酔いからすっかり回復しスッキリした様子のローレルが、興味津々といった様子で話しかけてきた。
「アインシュ族ってやつに襲撃されたんだ」
覚えたばかりの名前が合っているか少し不安になりながら答える。
「あーね。大変だったね」
ローレルは一度だけ隣にスピレアへ視線を向けると、どこか納得したように頷いた。
「なぁ、一つ聞きたいんだけど」
「んー?」
「アインシュ族って、機械文明の復活を願ってるんだよな?」
「うん。世間ではそう言われてるね」
「だったら、なんで精霊術師を狙うんだ?」
素朴な疑問を口にすると、ローレルの表情から笑みが少しだけ消えた。
「それ、あーしに聞く? 人選ミスじゃね?」
ローレルは困ったように頬をかきながら苦笑した。
「…確かにな。悪かった」
ギャルに聞くような話じゃなかったかと思い、素直に引き下がる。
「その納得の仕方、なんかムカつくんですけど?」
ローレルがジトッとした目で睨んできた。
「はぁ…しゃーなしね」
大きくため息をつくと、観念したように口を開く。
「まぁ、噂レベルの話だけど。アインシュ族は、精霊術師に旅をやめさせるためじゃね?って言われてるんだよね」
ローレルはそう言って両手を軽く広げ、肩をすくめた。
「旅をやめさせる?」
思わず眉をひそめて、聞き返す。
「精霊術師の旅って危険だらけじゃん? 魔物も魔獣もいるし。だからじゃね? …知らんけど」
ローレルがいつもの軽い口調で肩をすくめる。
「確かに、危険なことばかりだよな」
頷きながら相づちを打つ。
「だったら、アインシュ族って意外と優しい連中なのかもな」
冗談半分で笑ってみせる。
「かもね」
ローレルもくすっと笑い、軽く乗ってきた。
その時だった。
視界の端で、スピレアがぴくりと反応した。
「おい、不審者。アインシュ族が優しいだと?」
低く抑えた声が対角から飛んできた。
視線をやると、ルドベックが険しい表情でこちらを睨んでいる。
「貴様に、アインシュ族がどれほど危険な存在か…たっぷり教えてやる」
そう言うと、ルドベックはローレルと席を入れ替え、目の前へどっかりと腰を下ろした。
嫌な予感しかしない。
ルドベックの完全復活である。
案の定、その説教は馬車が就寝休憩を取るまで、一度も途切れることはなかった。




