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海上戦

「よっと!」

フランネルは軽く地面を蹴ると、ジェットボートから甲板へふわりと飛び降りた。

遅れて、クロマルも勢いよく甲板へ飛び移る。

その着地を合図にしたかのように、左右のジェットボートからも次々とアインシュ族の戦闘員たちが飛び込んできた。

手には剣やナイフ。

あっという間に甲板へ散開し、逃げ道を塞いでいく。

囲まれた…

素早く甲板の中央へ集まり、互いの背中を預けるように円陣を組んだ。

「ルドベックちゃんは、スピレアから離れないでちょうだい。アタシとアスターちゃんで何とかするわ。いいわね?」

背中合わせのまま、グラッドが小さな声で作戦を告げる。

全員が無言で頷いた。

次の瞬間。

グラッドが床を蹴り、正面の戦闘員へ一直線に飛び込む。

「ぐっ!」

一撃目が炸裂した。

その隙を逃さず、フランネル目掛けて甲板を駆けた。

「ちょっと! 人の話は最後まで聞きなさいよ!」

フランネルは目を丸くしながら、慌てて声を張り上げる。

その直後だった。

黒い影が、真正面から一直線に飛び込んでくる。

「クロマルか!」

剣を振り下ろす。

だが、

ガキンッ!

クロマルは鋭い牙で刃を受け止め、そのまま口で剣を挟み込んだ。

「はぁっ!?」

驚く間もなく、俺の勢いを利用して身体をひねる。

次の瞬間、身体が宙へ浮いた。

視界がぐるりと一回転する。

なんとか空中で体勢を立て直し、甲板へ着地する。

すぐにクロマルの姿を探した。

しかし、いない。

視線を上げる。

クロマルは高く跳び上がり、こちらを見下ろしていた。

その口の奥には、プロミネンスを彷彿とさせるように炎が踊っていた。

クロマルが大きく口を開く。

吐き出される。

そう思った、その時。

「クロマル! 炎は、めっ!」

フランネルの慌てた声が甲板へ響いた。

「くぅーん…」

クロマルは素直に口を閉じる。

渦巻いていた炎はふっと掻き消え、しょんぼりとした鳴き声だけが残った。

「…何がしたいんだ?」

あまりにも戦闘らしくないやり取りに、思わず動きを止めて首を傾げた。

「貴方だけでもいいから、話を聞いてちょうだい」

フランネルは、とぼとぼと戻ってきたクロマルをしゃがんで優しく撫でながら言った。

ついさっきまで戦闘していたとは思えないほど、穏やかな光景だった。

その違和感に眉をひそめながらも、剣は構えたまま警戒を解かない。

「いいけど、どんな話だ?」

「ふん。やっと話を聞く気になったのね。まず、フランちゃん達はね」

フランネルの表情がぱっと明るくなる。

そして、勢いよく語り始めようと口を開いた。

「ストップ!手短に」

長くなる。

そう確信したので、話し始めたばかりだというのに容赦なく遮った。

「…腹立つわね」

フランネルは目の前で拳をぎゅっと握り締め、ぷるぷると肩を震わせる。

しばらく怒りを飲み込むように深呼吸すると、小さく咳払いをした。

「おほん」

すぐに真面目な表情へ切り替える。

「フランちゃんたちは精霊術師以外には興味がないの。精霊術師を引き渡してくれれば、貴方たちには一切危害を加えず、この場から即座に撤退するわ」

感情を抑えた声で、フランネルは用件だけを淡々と告げた。

「なるほど。わかった」

「わかってくれたの!」

フランネルの表情がぱっと明るくなる。

期待に満ちた瞳が、まっすぐこちらを見つめていた。

「戦うしかないってことがな!」

言い終えるより早く、甲板を蹴る。

一気に間合いを詰めようとした。

「なんでそうなるのよ!」

フランネルは眉を吊り上げ、素早く五色の魔石が埋め込まれたワンドを抜き放つ。

魔法が来る。

そう身構えた瞬間だった。

フランネルはワンドをくるりと逆さに持ち替え、そのまま大きく振り抜く。

シュルルッ!

ワンドの柄尻から一本の鞭が勢いよく伸び、蛇のように唸りながら一直線に襲いかかってきた。

反射的に剣を合わせる。

ガキンッ

弾き返した、そう思った次の瞬間。

「はあ!?」

驚きよりも早く、鞭が刃へ絡みつく。

するすると剣を締め上げ、動きを完全に封じ込められた。

「どうなってんだよ!」

剣を引き、押し、力任せに振る。

だが、鞭は刃へ絡みついたまま、びくともしない。

「クロマル! 行って!」

フランネルが間髪入れず命令を飛ばす。

「バゥ!」

クロマルは甲板を蹴り、一気に距離を詰めてきた。

まずい。

剣は封じられたまま。

避ける暇もない。

そう思った、その瞬間。

ドンッ

視界の横から、大きな背中が滑り込んできた。

見慣れた広い背中。

「グラッド!」

思わず名前を叫ぶ。

グラッドは一歩前へ踏み込み、迫るクロマルの牙を両手のグローブで受け止めた。

ガキンッ

鈍い音が甲板に響く。

「アスターちゃん。時間稼ぎ、お疲れ様」

クロマルを押さえ込みながら、グラッドはいつも通りの余裕ある笑みを浮かべた。

「さて…フランネル、と言ったかしら?」

クロマルは勝ち目がないと判断したのか距離を取り、静かに後退する。

それを見届けたグラッドは、ゆっくりと腰へ手を当て、フランネルへ視線を向けた。

「もう、残っているのはアナタだけよ」

穏やかな口調とは裏腹に、その一歩には揺るぎない威圧感がある。

「可愛い女の子を殴るのは趣味じゃないのだけどね?」

そう言って拳をぎゅっと握り締める。

甲板に立つだけで、空気が張り詰めた。

「…仕方ないわ。今日は撤退よ!」

フランネルは辺りを見回す。

倒れ伏した戦闘員たち。

動けなくなった仲間たちを見て、悔しそうに唇を噛んだ。

「また迎えに来るからね!」

そう言った瞬間、甲板の手すりを蹴り、そのまま海へ飛び降りる。

「バゥ!」

クロマルも迷わずその後を追った。

慌てて船縁まで駆け寄り、海を見下ろす。

そこには、ジェットボートへ飛び乗り、沖へ向かって走り去っていくフランネルとクロマルの姿があった。

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