少女の名前
ぐーっと腹が大きな音をたてた。
「ふふふふふ。お腹空きましたか?」
お腹の音を聞いて彼女が再び笑う。
そして、いたずらっぽい笑みを浮かべてそう聞いてきた。
「…はい、空きました。」
恥ずかしさでカーっと顔に血が集まってくるのを感じる。
俯いて小声で答える。
「簡素な物ですが食事を用意してますのでどうぞ。」
彼女の顔からは最初、2度目の出会いの時のような怯えは消えて年相応の可愛らしい少女のような笑みを浮かべてそう言った。
「ありがとうございます。…どうして、嘘をついていると思われたのですか?嘘発見の魔法ですか?」
彼女が勧める簡素というより質素な食事をちらりと見てお礼を述べる。
少しばかりの沈黙。
お腹がなった恥ずかしさも相まってその沈黙に耐えきれない。
その場を凌ぐためだけに先ほど浮かんだ疑問を問いかけてみた。
「ぷっ、ふふふふふ。そんなのあるわけないじゃないですか。その辺りの話は食事をしながらどうですか?」
彼女は再び吹き出した。
しばらく、口元を押さえ愛らしく笑ったあとに食事をとるように促される。
その言葉に後押しされるように立ち上がった。
食事の前に行き腰を下ろすと彼女もついてきた。
「どうして、嘘が分かったというか、俺いや、私の事を信じてくれるようになったんですか?」
手を合わせ食事をいただくことにする。とりあえず、水を一口飲んで口内を潤し疑問を再度尋ねる。
気の緩みのせいか口調が崩れる。何度か言い直しつつ問いかけた。
「無理に敬語じゃなくても良いですよ。私も敬語は疲れますし、お互い普通に話さない?」
彼女はこちらを気遣ってくれたようだ。そう提案してきた。
「助かる。で、どうして?」
その提案に乗り短文で疑問を投げかける。
「どうしてねぇ。うーん、直感?」
疑問を投げかけられた彼女は困り顔を浮かべ首を傾げ、考えた。
そして、信じるようになった根拠を述べた。
「直感?」
彼女の答えは信じるにしては頼りないものだった。
その為、困惑した顔を浮かべた。
胡散臭いものを見るような視線を相手に向けて復唱した。
「いや、他にも理由はあるんだよ。ほら、これ!!」
慌てた様子で彼女が弁解を試みる。
そして、先ほど見せてきた銀製の五芒星を模倣したネックレスを見せつけてきた。
「ネックレス?これが何?」
より一層困惑した。
ただのネックレスにしか見えない。これが根拠?
数々の疑問を頭に浮かべつつ困った様子で尋ねた。
「これは、精霊術師の証なの。」
彼女は得意げな笑みを浮かべ短い言葉で答えた。
精霊術師?
証?
納得するには程遠い。
理由に謎は益々深まった。
「だから、何?」
根拠を聞いても全くピンと来ない。訝しむような視線を向けて再度尋ねた。
「うーん、だから…普通は精霊術師の前で嘘はつかないし、精霊術師を知らない人なんて居ないんだよ。」
こちらの疑問に困った様子でしばらく考えたあと、彼女は優しく小さい子に教えるような口調でそう教えてくれた。
「いや、嘘はつけるだろ。」
どんなに偉い人の前でも嘘をつく。そんな当たり前が通用しない常識に困り、そう反論した。
「嘘をつかないのが常識なの。」
彼女は少し怒ってしまったようでムッとした様子でそう言った。
「あっそうだ。名前、名前はなんていうの?」
これ以上話しても平行線になり、場の空気が悪くなるだけだ。
そう判断すると話題を変えるためにも名前を聞いた。
「むぅ。スピレアだよ。」
こちらが納得していない様子に少し不満のようである。
でも、性根が純粋なんだろう質問にはきちんと答えてくれた。
「おーい、スピレア、そろそろ戻っておいで。じゃないとルドベックが大変なんだから。」
遠くの方から彼女を呼ぶ声がする。
口調は、女性のようだが声は太く低く男性だ。
そんな声がため息交じりに独り言をこぼしながらこちらへと近づいてくる。




