仲間の紹介
「ふわぁ…」
スピレアに促されるまま部屋を出る。
大きなあくびをしながら歩いていると、ちらりと窓の外の景色が目に入った。
見渡す限りの木々。
…何も分からん。
昨夜見た、民家の明かりもまばらな景色。
月明かりだけを頼りに歩いた土の道。
やはり、かなりの田舎らしい。
そんなことを考えながら教会の外へ出る。
教会の前には、昨日会った四人が集まっていた。
こちらへ嬉しそうに手を振るスピレア。
気だるそうに片手を上げるギャルことローレル。
大きなあくびをするグラッド。
そして、腕を組み、敵意むき出しでこちらを睨みつけるルドベック。
ルドベックの頬には青あざができていた。
…腕力。
昨日のグラッドとの会話が頭をよぎる。
「アタシが何とかするわ」
ああ。
話術じゃなくて、本当に腕力だったんだな。
納得すると同時に、少しだけ哀れみの視線をルドベックへ送りながら輪に加わった。
「じゃあ、改めて自己紹介ね。私は精霊術師のスピレア。うーん、五行の魔法は全部使えるよ」
スピレアが笑顔で自己紹介をしてくれる。
五行?
精霊術師?
また知らない単語が出てきた。
思わず眉をひそめた。
ただ、精霊術士というのはなんとなく想像がつく。
魔王を封印する役職のことだろう。
「そういう感じ? じゃあ次はあーし。ローレルだよ。魔法使いってやつ。あーしも五行は全部使えるよ」
質問するタイミングもなく、ローレルも片手を挙げて自己紹介を行う。
また五行。
この世界では当たり前の言葉なのだろうか。
疑問は深まるばかりだった。
「じゃあ次はアタシ。知ってると思うけど、アタシはグラッド。モンクをやってるわ。魔法については……ヒ・ミ・ツ。ちゅっ♡」
最後にウインクと投げキッスが飛んできた。
緊急事態だ。
慌てて身をひねって回避する。
「傷つくわぁ~」
「何それ。ウケるー」
「ふふふ」
グラッドは傷つき、ローレルは笑い、スピレアは楽しそうに微笑んでいた。
和やかな空気の中、ルドベックが一歩前へ出る。
「私はルドベック。元騎士だ」
こちらを睨んだまま、それだけを告げた。
続いてスピレアが「次はアスターだよ」と言いたげな視線を向けてくる。
その視線に背中を押されるように手を挙げた。
「えっと…俺はアスター。その、とにかくよろしく」
ただの自己紹介。
それなのに緊張した。
話せることが、名前しかない。
「それだけか?」
ルドベックが眉をひそめる。
「魔法は? 体術は? 剣技は? 全部とは言わん。前衛か後衛か判断できる程度のことは話してもらわねば困る。それとも、仲間になる気がないのか?」
正論だった。
だが、答えられない。
自分のことなのに、自分だけ何も知らない。
その事実が胸に重くのしかかった。
「…分からないんだ」
俯いたまま、小さく答える。
「何? 分からない? 隠したいのでは…」
「おーい! ルドベック!」
突然、おっさんの声が飛んできた。
振り返ると、村人らしい男がこちらへ駆けてくる。
「ちゃんと見張りをしてくれないと困るぞ!」
そう言うなりルドベックの腕を掴み、引っ張り始めた。
「見張り? どういうことだ?」
ルドベックは鳩が豆鉄砲を食ったような顔で三人を見る。
グラッドは口笛を吹きながら目を逸らし、
スピレアは「あっ、忘れてた」という顔をし、
ローレルは面白そうに笑っている。
「昨晩、そこのオカ…」
おっさんが説明しようとするも、「オカ…」と言いかけた瞬間、
「あぁん?」
グラッドが般若のような笑顔で睨みつける。
「…お姉様が大暴れして見張り番が怪我しちまったんだよ。だからスピレア様に相談したら、お前が代わりをやるって話になってな」
見事に訂正された。
どうやらグラッドは、助けるためにルドベック以外まで殴り飛ばしていたらしい。
「そんな話、私は知らん! だいたい、そのオカ…」
ルドベックが抵抗する。
「あぁん?」
「…いや、お姉様が悪いのではないか!」
二度目の訂正である。
しかし、ルドベックの言うことは、正論だ。
暴れた本人が見張りをするべきでは?
そう思っていると、
「ルドベック、お願い」
スピレアが両手を合わせて見上げる。
「貴方しか頼れる人がいないの」
「うっ…」
ルドベックが一瞬固まる。
「…スピレアがそう言うなら。案内してくれ」
あっさり陥落した。
不満そうな顔をしながらも、おっさんについて歩いていく。
…こいつ、チョロい。
スピレア、恐ろしい女だ。
「ルドベック、頑張ってー!」
スピレアが笑顔で手を振る。
その声だけで、ルドベックの背中がどこか嬉しそうになった。
…重症だ。
「さてと」
ルドベックを見送ったスピレアが、こちらを振り返る。
「何も分からないなら、まずは魔法適性だけでも見てみない?」
そう提案してきた。




