少女との和解
どれくらい時間が経っただろうか。
いや、さほど時間が経っていないのかもしれない。
ボーッと過ごしていた時に再びこちらへ、ととととっと走り寄る足音が聞こえる。
「あのー。お食事とお水です。」
先程別れた女の子がまた来てくれたようだ。
彼女は恐る恐る木のお盆に乗ったパンらしき物と木の器によそわれたスープ、それから水が入った木のコップを牢屋の端の方にある小さな入り口から牢の中へと入れてくれた。
「待ってください。少しだけ、少しだけでいいので…その…」
牢に食事を入れると足早にこの場を去ろうとする彼女を慌てて呼び止める。
立ち上がり背を向けて逃げ出そうとした彼女が急に話しかけられビクッと驚く。
しかし、そんなの関係ない。
次の言葉を言おうとした。
その時、思考が頭をよぎる。
彼女に何を聞く?
滅んだ日本について?
それとも京都?
魔王?
あのイノシシの化け物?
聞きたいことは山ほどある。
しかし、どれも彼女に聞いても良い反応を得られないだろう。
そう直感で理解するとどうにも言葉が出てこなかった。
「…話し相手になってください。」
少しの間気まずい沈黙が流れた。
その沈黙に耐えきれずポロっと言葉をこぼした。
「え?」
彼女は、こちらからの想定外の言葉に驚いたのかこちらを振り返ってくれた。
しかし、これ以上話せることは何もない。
さて、何を話したらいいのかと思案を巡らせようとした。
その時、彼女が口を開いた。
「血!!血が出てるじゃないですか!!どこか怪我をされていたんですか?」
彼女はそう驚きの声を上げた。
「ちょっと待って下さいね。」
こちらの反応も待たずに彼女はそう言って、格子越しではあるがこちらの背後にパタパタと走って回ってきた。
「こちらを向いていただけますか?」
彼女は続けてそういった。
はて?
傷の手当てでもしてくれるのか?
そう思いつつ立ち上がり指示されるように彼女の方に向いて座り直した。
「ちょっと待って下さいね。」
彼女は、右手をこちらの額に向けた。
何をするんだろう?
不思議に思い待っている。
すると、触れてもいない彼女の手から不思議な温かみを感じた。
「はい。もう大丈夫ですよ。」
彼女は少し満足げな笑みを浮かべてそう言うと右手を引っ込めた。
何をされたのか、わからなかった。
恐る恐る彼女が手を当ててた額の傷口に触れてみる。
痛っ…くない?そこには傷一つない額があった。
「何をしたんですか?」
驚きの表情を浮かべて彼女にそう問う。
「ふふっ何って治癒魔法じゃないですか。」
そう、彼女は笑いながら答えた。
魔法?
いや?、マジックの一種かと思いもした。
しかし、傷口を治すマジックなど見たこともない。
そんなことあれば、それはマジックではなく魔法だ。
だから、合っているのか。
想定外の答えに頭がパニックを起こした。
「治癒魔法を使えるんですか。凄いですね。」
パニックを起こした脳で少し知ったかぶりをしてみた。
「ふふふふふ。本当に治癒魔法って知ってます?」
彼女はこちらの知ったかぶりを見抜いたようだ。
手で口元を押さえて愛らしく笑うと、いじめっ子のようなでも優しさのある笑みを向けてそう聞いてきた。
聞いてきた時に最初にあったときには付けていなかったような気がする五芒星を模倣したネックレスのような物をこちらに見せつけてきた。
「えっと。も、もちりょん知ってますよ。当たり前じゃないですか。」
唐突の問いに意表を突かれた。
ここでまた日本がどうのこうの言ったらヤバい奴扱いされて彼女は逃げ出してしまうかもしれない。
そう思い、噛み噛みではあるが、強がりの嘘をついた。
「ふふふふふ。本当に何も知らないみたいですね。」
どういう理由かはわからないが、彼女はこちらの嘘を見抜けているようだ。
これも魔法なのか?
ふとそう疑問に思い聞いてみた。
「嘘を見抜く魔法ですか?」
その問いを聞くと彼女はしゃがみ込んでプルプルと震えだした。
どうやら、声を殺して大笑いしているようだ。
彼女の笑いが収まるのをしばらく待った。
「はー。その様子だと本当に何も知らないみたいですね。京都から来たってのも本当なのかも。」
数分間プルプルと震える小動物は、目尻に溜まった涙を拭いつつ立ち上がった。
大きく息を吐くとそう言ってきた。
理由は分からないが、京都から来たって話を信じてくれるようだ。
話し相手ができた安堵からかぐーっと腹が大きな音を立てた。




