悪夢
「…あなたは、なぜこんなことをするの?」
声が聞こえる。
名前を教えてくれた、あの女性の声だ。
「逆に聞こう。なぜ、お前はこんなことをする?」
返ってきた男の声は、憎しみに満ちていた。
「私はフランネル。あの娘が平和に生きていける未来のために戦うの」
フランネル…?
誰だ?
続いて別の男の怒号が響く。
何を言っているのかは分からない。
…気になる。
声のする方へ耳を澄ませた、その瞬間。
ふわり、と身体が浮く。
次の瞬間には、
ドスッ。
ベッドから盛大に転げ落ちていた。
「いてて…」
夢は途中で終わるし、ベッドから落ちるし。
これ以上ないくらい最悪な朝である。
気分転換に、昨日ゆっくり見られなかった村でも散歩しよう。
そう思って扉を開ける。
ルドベックと目が合った。
そっと扉を閉めた。
「おい!! 不審者!! なぜ閉める!!」
ドンドンと扉を叩く音が響く。
…最悪な朝が更新された。
「ストーカー。お前こそ何でいるんだよ」
扉を開けられまいと押さえながら言い返す。
「なっ!? 不審者、お前……気づいていたのか!?」
急に抵抗が弱まった。
…気づいていた?
何のことだ?
こちらはスピレアから聞いた昔話を思い出して、適当に言っただけなのだが。
話がまったく見えない。
「気づいていた? 何のことだ?」
素直に聞き返す。
「とぼけるな!! 俺…いや、私が夜通し貴様を監視していたことに気づいていたのかと聞いている!!」
ルドベックは扉に体当たりをしながら怒鳴る。
夜通し監視?
「…ストーカーじゃないか!!」
思わず本音が飛び出した。
「も〜。ルドベックもアスターも、朝から何やってるの? 迷惑だよ〜」
眠そうなスピレアの声が廊下に響く。
助かった。
…いや、待て。
今、ルドベックもアスターもって言ったか?
「こんなストーカーと一緒にするな。こっちは無罪だ」
また心の声がそのまま口から漏れる。
どうやら朝は、理性より口の方が先に動くらしい。
「不審者!! また私をストーカーと呼んだな!!」
ルドベックが慌てて騎士らしい口調を作り直しながら怒鳴る。
…もう遅い。
そのツッコミは胸の中だけにしまっておく。
「はいはい。二人とも、そこまで」
スピレアが呆れたようにため息をつく。
「ほら、ルドベックも行くよ。アスターも外に出てきてね」
「いや、しかし…」
ルドベックはなおも食い下がろうとするが、結局スピレアに押し切られてしまった。
…意外と押しに弱いんだな。
そんなことを考えながら部屋を出る。
荷物らしい荷物もない。
俺は二人の後を追うように、教会の外へ出た。




