教会の中
「ところで、さっきのは誰だったんだ?」
スピレアと二人、教会の中を歩く。
無言のまま歩き続けるのも気まずいため、話題を振ることにした。
「あの人は、ルドベック。私の幼馴染で、お兄ちゃんみたいな人だよ。…なんか、ごめんね。」
スピレアは申し訳なさそうに頭を下げる。
あの騎士風の男の名前は、ルドベックというらしい。
きっと、幼馴染であるスピレアの身を案じての行動だったのだろう。
先程の威圧的な態度も、そう考えれば納得できる。
「ルドベックは昔からちょっと心配性なの。でも、凄く優しくて頼りになるんだよ。私が困っていると、絶対にすぐ駆けつけてくれるの。」
スピレアは嬉しそうにルドベックの話をする。
絶対にすぐ駆けつけてくれる?
…それは、もしかして監視されていたのではないだろうか。
そんな野暮な考えが頭をよぎる。
しかし、嬉しそうに話すスピレアを見て、口には出さなかった。
「私が精霊術師になるって決めた時に、騎士団を辞めてまで付いてきた時は驚いたけどね。でも……嬉しかったよ。」
スピレアは少し照れたように笑う。
騎士団を辞めた?
そこまでして、彼は何を守ろうとしているのだろう?
恋は盲目、というやつなのだろうか?
そんなことを考えながら、スピレアとルドベックの関係について勝手に想像する。
「この部屋で今日は休んでね。」
気がつけば、今日泊まる部屋まで案内されていた。
スピレアが木製の扉を開ける。
中は、木で作られたベッドが一つ置かれているだけの簡素な部屋だった。
周囲を見回していると、スピレアが振り返る。
「おやすみなさい。また明日ね。」
「ああ。ありがとう。おやすみ。また明日。」
手を振るスピレアに、こちらも手を振り返す。
今日は、本当に色々なことがあった。
記憶を失って。
魔物に襲われて。
知らない人達と出会って。
明日になれば、何か分かるかもしれない。
そんな楽観的な考えを抱きながらベッドへ横になる。
疲れ切った身体は、すぐに眠気へと引きずり込まれていった。




