少女との再開
「…だから、本当なんだって!!本当にそう言ったの!!」
「んなわけないじゃん。ウケるー。」
遠くの方から聞こえる会話で目が覚めた。
少しの間だが眠ってしまっていたらしい。
人間案外どこでも眠れるものだと感心しつつ身体を起こして木の格子の方へと歩み寄る。
「おっ居た居た。あれが例の男子?」
「うん。そう。」
会話を行っていた人物達が自分の牢屋の前で歩みを止める。
片方は、先程粗相をしていなくなってしまった女の子だ。
こちらを警戒していると言うか怖がっている様子だ。
もう一人の女の子の背中に隠れてこちらを伺っている。
もう一人は、知らない女の子だ。
身長は163cmくらい。
第二ボタンまで開けた白のシャツに膝上丈の紺色スカート。
その上から魔道士のローブらしき物を着ている。
髪色は暗い茶色。
左右に飛び跳ねたツインテール。
赤色のアクセントカラーが入っている。
瞳は大きく金色。
目の下にクマがあり、目つきが少し悪い。
長い爪には、ゴテゴテにネイルが入っている。
そして、シルバーのピアスが右の耳には3つ、左耳には2つが付いている。
端的に彼女を表すならギャルだ。
「君が日本人ちゃん?」
ギャルが口を開く。
どこか馬鹿にしたように笑いをこらえるような声でそう問いかけられた。
「ああ、そうだ。」
その馬鹿にしたような人を面白がるような態度に少しムッとしつつもそう返す。
礼儀には礼儀を、非礼には非礼だ。
こいつに敬語を使う必要はないと囚われの身ながら少し反抗心を出してみた。
「ぷっ。なわけないじゃーん。あはははは。ウケるー。」
彼女は笑いを堪えられなかったのか吹き出して、笑いながらそう答えた。
ギャルが笑いながら手を叩くのはどうやら未知の世界、異世界とでも呼んでおこう、でも共通のようであった。
その笑う姿に少々の怒りを覚える。
「睨まないでよ。怖いじゃん。」
どうやら無意識のうちにギャルを睨んでいたようだ。
眉に入った力を緩めて問いかけた。
「俺が日本人じゃないと言える根拠は?」
真面目な面持ちで一切の冗談なく問いかけたのであるがギャルは再び手を叩いて大笑いをした。
「いーい?日本人ってのは、こう目が細くて、瞳が暗いの。それくらい常識っしょ。」
笑いすぎて涙が出たのか目尻に溜まった涙をネイルのついた指で器用に拭いながら日本人の特徴を語る。つり目ポーズだ。
アジア人差別の象徴的ポーズをギャルは取った。
唐突に取られたそのポーズに面食らう。
しかし、ギャルからは差別的侮辱的ニュアンスは一切感じない。
むしろ、親切にわかりやすく伝えようとしているそのような印象を受ける。
「それは。そのぉ。」
何か反論をしたいが残念な事にギャルの言っていることは正しく、反論をできない。
口を開いてモゴモゴと口ごもる。
それが唯一の対抗だった。
「いやー、君が変な事言うからさー。おかしくて。ね?」
何も言い返せない姿を哀れんだのだろうかギャルが口を開いた。
口角は上がっているが、顔の前で手を合わせごめんというようなポーズを取りパチクリとウインクをしてくる。
「そんでさ。君、どこから来たの?名前は?」
ギャルが矢継ぎ早に質問してくる。
「俺は…京都、そう。京都から来た。ア、アスター」
どこから来たのかという問いに答えようとするもどこに住んでいたのかすぐに答えることができず言い淀む。
その時、ふと思い出した自分が京都のアパートに住んでいたことを。
そして、名前に関しては少し前にそう名乗ると決意したが少し恥ずかしくなり小声でボソリと答えた。
「あー。うん。これ、重症だわ。」
また笑われるのかと身構えていたがギャルの反応は違った。
質問の答えを聞いてギャルは、呆れ半分哀れみ半分、中二病にかかった学生を見るような蔑む目でそう言った。
「どういう意味だ?」
こちらは本気で答えているのに妄言を言っている相手に対するようなその態度にイラッとしそう問うた。
「だってさー。京都なんて歴史の教科書に出てくるような古代都市で今は人なんて住んでいない、いや住めないが正しいんかな?こんなん義務教育でやる常識ってやつっしょ。」
呆れたような蔑む視線を向けて解説してくれる。
その解説は虚言のような内容であるが、ギャルの後ろに隠れている女の子もコクコクと頷いている。
「京都が古代都市?」
ギャルの言っていることが何一つ理解できない。
いや、理解したくないの間違いかもしれない。
しかし、後ろの女の子の様子からして嘘を言われているわけではなさそうである。
だから、そう問い返した。
「そそ、今から2000年くらい前に滅んだ都市の名前っしょ。京都って」
ギャルから恐ろしい言葉が飛び出す。
2000年前?滅んだ?そんなはずはない。
昨日まで住んでいたはずの場所が無くなるなんてあり得るはずがない。
「2000年前?に滅んだ?そんなバカなことがあるか。なんだ?他国から核爆弾でも落とされたっていうのか?じゃあ、どうして俺は生きている?」
怒りに似たような衝動的感情から早口でそう聞いた。
しかし、京都が滅んだなんて事実確認をしたくない。
頼むから冗談だと言ってくれと口には出せないが本心ではそう叫んでいた。
「核爆弾?あー、機械文明の時の爆弾?あーしには分からないんだけど。京都は、魔王が現れて滅んだ。あと、魔王の力で天変地異が起きたから日本なんて国もなくなった。これ、小さいときに習わなかった?」
ギャルは、ドン引きした顔をして質問に対し丁寧に答えてくれた。
知りたくなかった話もおまけに。
嘘だ!!と叫びたかったが後ろの女の子も真剣な表情で頷いている。
それが妙に話に真実味を持たせてくる。
下半身から力が抜け、ぺたりと力なくその場に座り込んだ。
「嘘だ…」
座り込んでそう呟くのが限界だった。
「あちゃー。かなり、重症だわー。スピちゃん、行こ行こ。溺れた時の衝撃で記憶がぐちゃぐちゃってなっているんでしょ。まぁ、そういうわけで落ち着いたらまた来るからー。」
地面を見てても分かるギャルはおそらく哀れみの視線をこちらに向けて話しているのだろう。
受け入れがたい現実を目の前に顔を上げる元気もない。
ギャルは、こちらの反応を待たずに女の子とともにその場を後にした。




