教会
教会は村の中央に建つ、小さな木造の建物だった。
白い壁には精霊を象った紋様が刻まれ、入口の両脇には季節の花が供えられている。
豪華な装飾こそない。
それでも、隅々まで手入れが行き届いており、村人たちに大切にされている教会なのだと一目で分かった。
「その不審者は誰だ?」
教会の前へ着くなり、騎士風の男が鋭い視線をこちらへ向けた。
整った顔立ちをした青年で、兜こそ被っていないものの、軽装の鎧を身につけた騎士そのものといった姿をしている。
「はぁ…なんでこんなところにいるのかしら」
グラッドがため息をつき、やれやれと言いたげに肩をすくめる。
「おい、不審者。貴様は何者だ?」
男は敵意を隠そうともせず、低い声で問いかけてきた。
……まあ、当然か。
見知らぬ男が突然現れたのだから、警戒するのは当然だ。
頭では理解している。
それでも、真正面から敵意を向けられるのは気分のいいものではない。
「俺は、アスター。その…」
言い返そうと口を開く。
だが、そこで言葉が止まった。
京都から来た。
そう言ったところで、また変人扱いされるだけだ。
それくらいは、さすがに学んだ。
結局、名乗ることしかできなかった。
「なんだ? 隠し事か?」
男は眉をひそめ、警戒を強める。
「実はね…」
スピレアが、ちょこちょこっと小走りで男のもとへ向かい、耳元で何かを囁いた。
どうか、京都のことだけは伏せてくれ。
そんな願いも虚しく――
「ふっ。コンペートーから来た? 転生者? 何を抜かしてやがる」
男は鼻で笑い、見下すように吐き捨てた。
どうやら、願いは届かなかったらしい。
じわりと怒りが込み上げる。
殴りかかってやろうか。
そう思った、その時だった。
「はいはい。ストップ、ストップ」
パンパン、と手を叩きながら、グラッドが二人の間へ割って入る。
「もう夜も遅いんだし、この話は明日にするわよ」
まるで子どもの喧嘩を仲裁する母親のような口調だった。
そして、男をちらりと睨む。
「…っ」
その一瞬で、男の表情が強張った。
「ふん……まあいい。明日、はっきりさせよう」
不満げに鼻を鳴らしながらも、男は素直に引き下がる。
男は、こちらの横を通り過ぎて教会をあとにしようとする。。
「そうそう。それでいいのよ」
グラッドは満足そうに頷くと、大きくあくびをした。
「夜更かしは、お肌の天敵なんだから」
「おい、不審者」
立ち去る間際、男はもう一度だけ振り返る。
「今日は引き下がってやる。だが、妙な真似はするなよ」
そう言い残すと、歩き去っていった。
…一体、何だったんだ。
「じゃあ、アタシも帰るわね」
グラッドも軽く手を振ると、その場を後にする。
「じゃあ、行こうか」
スピレアが微笑みながら声をかけてくれた。
その後に続き、教会の中へ足を踏み入れた。




