夕日
夕方が近づき始めた頃。
コンコンコン。
部屋でゆっくりとくつろいでいると、扉を叩く音が静かに響いた。
「はーい。今行くわ」
誰だろう?
不思議に思っていると、グラッドが立ち上がり、扉へ向かう。
襖を開けると、そこには少し遠慮がちな様子のスピレアが立っていた。
「今、大丈夫?」
恐る恐る尋ねるスピレアに、グラッドが優しく微笑む。
「ええ、大丈夫よ。どうかしたの?」
「その…そろそろ夕ごはんを食べに行かない? お腹、空いちゃって…」
そう言って、自分のお腹にそっと手を当てる。
照れくさいのか、頬だけでなく耳までほんのり赤く染まっていた。
「…そうね。それじゃあ、今晩はパーッと楽しみましょうか!」
グラッドは窓の外へちらりと目を向けると、今度はルドベックへ視線を移し、にやりと笑った。
「グラッド! 旅行に来ているんじゃないんだぞ!」
間髪入れず、ルドベックがいつもの調子で噛みつく。
「あら? 楽しむことにしたんじゃなかったのかしら?」
グラッドは頬に手を添え、とぼけたように首を傾げる。
「…っ」
ルドベックは言葉に詰まり、悔しそうに拳を握り締める。
やがて、大きくため息をついた。
「…いいだろう。今晩だけだ。本当に今晩だけだからな!」
勢いよく顔を上げると、グラッドを指差して負け惜しみのように言い放つ。
「ふふっ」
グラッドは満足そうに微笑む。
「…生真面目め」
あまりにも分かりやすいルドベックの反応に、思わず呆れた声が漏れた。
「何だと、貴様!」
ルドベックが勢いよく立ち上がり、こちらを鋭く睨みつける。
どうやら、いつもの調子が戻ってきたらしい。
…戻ったら戻ったで面倒くさい。
俺はさっさと立ち上がると、ルドベックを無視してスピレアのほうへ逃げる。
「おい! 不審者! 私を無視するな!」
案の定、背後から怒鳴り声が飛んできた。
その声に、スピレアがくすっと笑う。
「ふふっ。いつものルドベックだね」
嬉しそうに微笑みながら、見上げてくる。
「無事に解決した?」
「残念ながら、解決したみたいだよ」
ため息混じりに答えると、スピレアは安心したように小さく頷いた。
「…そっか」
そう呟くと、三歩ほど近づいてくる。
そして、両手を後ろで組み、少しだけ前かがみになって顔を覗き込んだ。
「ありがとう」
その笑顔は、夕日にも負けないくらい眩しかった。




