港町ジェノセキ
それから数日。
一行は険しい山道を越え、いくつもの峠を歩き続けた。
そして、最後の山を登り切る。
視界が一気に開け、眼下には夕陽を受けてきらきらと輝く海が広がっていた。
その海辺には、小さな港町が静かに佇んでいる。
「あれが…ジェノセキ?」
目的地をようやく目にし、一行は山頂で一夜を明かした。
翌朝。
山道を下り続けた俺たちは、昼前には潮の香りが漂う港町へとたどり着いた。
「無事に着いたわね。じゃあ、船に乗るわよ」
港町に到着したばかりだというのに、グラッドは早くも旅立とうとしていた。
「ぶー」
「ぶー」
思わず口を尖らせて抗議すると、隣からも同じ声が重なる。
見ると、ローレルも不満そうに頬を膨らませていた。
どうやら、ローレルも港町を見て回りたいらしい。
「船の時間を確認するだけだからね。ね? グラッド?」
困ったような笑みを浮かべたスピレアが、俺とグラッドの間に割って入る。
こういう時は、ルドベックが説教しに来るのに。
そう不思議に思って視線を向ける。
しかし、ルドベックは、なぜか遠くの海をぼんやりと眺めていた。
今すぐ船の時間を確認しに行くか、少し観光してから確認しに行くか。
意見が割れた結果、グラッドとじゃんけんで決めることになった。
そして、見事に敗北した。
渋々、船の停泊所までやって来る。
しかし、そこには一隻の船も停まっていなかった。
「おお、旅の方か。すまないな」
停泊所に着くと、いかにも船乗りといった風貌の中年男性が声をかけてきた。
「ちょっとトラブルがあってな。エヒメア行きの船は明後日まで出せないんだ」
「何があったんですか?」
スピレアが心配そうに尋ねる。
「イエス!」
「イエス!」
ローレルと顔を見合わせ、思わずハイタッチを交わす。
後ろから、グラッドの大きなため息が聞こえた。
「トラブルなら仕方がないな。宿を探そうか」
ルドベックは意外なほどあっさりと引き下がった。
その様子に少し違和感を覚えながらも、船乗りの話へ耳を傾ける。
「実はな…昨日くらいにアインシュ族に襲われて、船を壊されちまったんだ」
男は苦い表情を浮かべる。
アインシュ族。
一体、何がしたいんだ?
胸の奥に嫌なものを感じ、眉をひそめる。
「それだけじゃない。乗客だった精霊術師様も連れ去られてな…」
カルタムの事じゃないよな?
嫌な予感が脳裏を過ぎる。
「…そうだったんですね」
スピレアは少し間を置いて、沈んだ声で答えた。
「お気の毒に…」
「そういうわけだから、すまないが出発は明後日まで待ってくれ」
「仕方がないわね。明日までは自由時間にしましょうか」
重くなった空気を振り払うように、グラッドがパンパンと手を叩きながら明るい声を出す。
けれど、観光の予定ができたというのに、誰の足取りもどこか重かった。




