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旅の理由

山あいにある小さな開けた土地。

西の空を茜色に染めていた夕日が山の向こうへと沈み、辺りは少しずつ夜の帳に包まれ始めていた。

中央では焚き火が静かに揺れ、ぱちぱちと薪のはぜる音が静寂に溶け込んでいく。

その火を囲むように腰を下ろした一行は、温かな夕食を口にしながら、穏やかなひとときを過ごしていた。

「そういえばさ、スピレアが魔王討伐の旅に出た理由って何なんだ?」

カルタムから旅の事情は聞いていたが、スピレア本人の口からはまだ聞いていなかった。

「…魔王封印だ」

焚き火を見つめたまま、ルドベックが静かに訂正する。

教典だか聖典だか知らないが、相変わらず細かい。

「討伐でもいいだろ!」

思わず語気が強くなる。

「…確かに、そうかもしれないな」

だが返ってきたのは反論ではなかった。

ルドベックは焚き火の揺れる炎をぼんやりと見つめたまま、小さく呟く。

その横顔には、どこか迷いの色が浮かんでいた。

怒らないのか?

あまりにも拍子抜けして、思わず首を傾げた。

「えっと、私の魔王討伐?魔王封印?旅の理由なんだけど」

スピレアが少し戸惑ったようにこちらとルドベックを交互に見るように視線を泳がせながら口を開く。

「お…」

一瞬、何かを言いかける。

けれど、その言葉は小さく飲み込まれた。

「みんなが平和に暮らせる世界を作りたいから。それが、昔からの夢なんだ」

そう言って微笑む。

その笑顔は優しく、どこか寂しさを秘めていた。

「みんなが平和に暮らせる世界、か…」

思っていた以上に大きな願いだった。

でも、スピレアらしい願いだ。

思わず、その言葉が口をついて出る。

「…変、かな?」

スピレアが不安そうにこちらを見つめる。

「いや、良い夢だと思うよ」

一度言葉を区切り、スピレアの瞳を見返した。

「でもさ、もう少しくらい自分のための願いがあってもいいんじゃない? 少しくらい我儘を混ぜたって、きっとバチは当たらないよ」

「ふふっ、それもそうだね」

スピレアは柔らかく微笑み、小さく頷いた。

「じゃあ…アスターと、ルドベックと、グラッドと、ローレルが、ずっと平和に笑って暮らせる世界にしたい、かな」

照れくさそうに一人ずつ名前を挙げながら、少しだけはにかむ。

「…スピレアは?」

思わず尋ねた。

その願いの中に、肝心のスピレア自身が入っていなかったからだ。

スピレアは一瞬きょとんとした後、真剣な表情でこちらを見つめ返す。

「討伐…だもんね?」

「う、うん」

その真っ直ぐな眼差しに気圧され、曖昧に頷くことしかできなかった。

すると、スピレアはふっと表情を和らげる。

「じゃあ…私も一緒に、そんな世界で暮らしたいな」

そう言って浮かべた笑顔には、さっきまでの寂しさはもうなかった。

心の底から未来を楽しみにしている。

そんな満面の笑みだった。

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