旅の予定
昼食を終え、一行はしばしの休息を取っていた。
焚き火の火は小さくなり、山を吹き抜ける風が木々を優しく揺らす。
穏やかな時間が流れていた。
スピレアとローレルは並んで座り、先ほど新調したローレルのネイルを眺めながら楽しそうに笑い合っている。
その少し離れた場所では、グラッドが食器を片付けていた。
そして、さらに視線を移す。
ルドベックだけが輪から外れ、一人険しい表情で地面を見つめていた。
まるで、胸の内で何かを抱え込んでいるかのように。
賑やかな空気とは対照的に、そこだけ静かな時間が流れていた。
食器の片付けを終えたグラッドが、ふぅと一息つきながら隣へ腰を下ろした。
「そういえば、グラッド。次はどこを目指しているんだ?」
目的地を聞きそびれていたことを思い出し、何気なく尋ねる。
「あら? 言ってなかったかしら?」
グラッドが不思議そうに首を傾げた。
「聞いたのは、アグニスまでだな」
出発当日の慌ただしさを思い出しながら答えると、グラッドは「ああ」と小さく声を漏らした。
「…そういえば、そうだったわね」
少しだけ視線を宙へ向けて記憶をたどると、納得したように何度か頷く。
そして、荷物の中から一枚の大きな地図を取り出し、地面の上へゆっくりと広げた。
「次はエヒメア。それからイズーナ、サカリウム、ビワリア、最後にコンペートーへ向かう予定よ」
グラッドは地図の上を指でなぞりながら、一つひとつ目的地を示していく。
つまり、愛媛、島根、大阪、滋賀、そして京都。
そんな順番で旅を続けるらしい。
だが、広げられた地図は知っている日本地図とは少し違っていた。
淡路島の姿はなく、本州と四国の形もどこか異なる。
さらに、福井付近から滋賀、京都を抜け、大阪まで一直線に伸びる巨大な川のようなものが描かれている。
見覚えのない地形に思わず眉をひそめた。
「グラッド、これは何なんだ?」
その巨大な川を指差して尋ねる。
「ああ、それは運河よ」
グラッドは地図を覗き込みながら説明を続けた。
「大昔、魔王が自分の力を見せつけるために一人で造ったって言われているわ。ほら、この辺にも、この辺にも」
そう言って九州、四国、中部へと指を滑らせる。
そこには、川というより、大地を切り裂くような巨大な運河がいくつも描かれていた。
「…魔王って、世代交代しているよな?」
大地を切り裂くほどの運河を造る存在なんて、どう考えても勝てる気がしない。
そんな嫌な予感を振り払うように、半ば祈る気持ちで尋ねる。
「しているわけないでしょ」
グラッドはあっさりと言い切った。
「…」
…終わった。
この旅の難易度が一気に跳ね上がる。
そんな絶望など気にも留めず、グラッドは地図を丁寧に畳んで鞄へしまうと、立ち上がった。
「さてと。十分休憩も取れたし、そろそろ行くわよ」
その一声で、一同も荷物をまとめ始める。
慌てて立ち上がり、その後を追う。
果たして、本当にあんな化け物と戦いになるのだろうか。
拭いきれない不安を胸に抱えたまま、一行は再び山道へと歩き始めた。




