ネイルって便利?
それから、一行は山道をひたすら歩き続けた。
木々の隙間から差し込む木漏れ日が、足元をまだらに照らす。
風が枝葉を揺らし、鳥のさえずりだけが静かな山に響いていた。
先頭を歩くグラッドの後を追って歩いていると、木々が途切れ、視界がぱっと開ける。
一同は、小さな広場へと足を踏み入れた。
「はーい。じゃあ、この辺りで昼食にしましょうか」
グラッドがパンパンと手を叩き、一同に声をかける。
「了解」
「わかった」
「はーい」
「あーい」
返事が重なると、それぞれが荷物を下ろし始めた。
グラッドの指示に従い、薪を集める者、水を汲みに向かう者、食材を取り出す者と、手際よく役割が分かれていく。
昼食の支度が始まった。
焚き火の上では、大鍋のスープがぐつぐつと音を立てて煮えていた。
昼食の支度も佳境に差しかかった、その時だった。
「あら? 困ったわね」
料理を担当していたグラッドが、頬に手を当てながら辺りをきょろきょろと見回す。
「グラッド、どうしたんだ?」
料理の手際が良いグラッドが困った様子を見せるのは珍しい。思わず声をかけると、グラッドは苦笑いを浮かべた。
「鍋のお肉に火が通ったか確かめたいんだけど、長いお箸をどこに置いたのか忘れちゃったのよ」
「なら、あーしに任せて!」
困っているグラッドの言葉を遮るように、ローレルが胸を張って名乗りを上げた。
何をするつもりなのかと見守っていると、ローレルは迷いなく指先を鍋へ突っ込んだ。
ネイルの先端で器用に肉をつまみ、そのままひょいっと持ち上げる。
「へへーん。便利っしょ?」
得意げに胸を張り、つまみ上げた肉をグラッドへ見せつける。
「便利ね」
「便利だな」
グラッドと俺の感嘆の声が重なる。
ネイルって、そんな使い方もできるのか。
思わず感心していると、ローレルはそのまま肉をグラッドの皿へ乗せようとした。
「ローレル!」
「ローレル!」
スピレアとルドベックの鋭い声が同時に飛び、ローレルの手がぴたりと止まった。
「えっ? ど、どったの? 二人とも…?」
ローレルが恐る恐る振り返る。
「どうしたじゃない!」
「どうしたじゃない!」
再びスピレアとルドベックの怒声がぴったり重なった。
「えぇ? あーし、なんかやっちゃった?」
ローレルはきょとんと首を傾げる。どうやら怒られている理由が本気でわかっていないらしい。
「汚いでしょ!」
「汚いだろ!」
二人はローレルを挟み込むように左右へ回り込む。
「えっ? どしたん? あーし、ちょっと用事が――」
ただならぬ気配を察したローレルが逃げ出そうとする。しかし、一歩踏み出すより早く、左右から腕をがしっと掴まれた。
「いい? ローレル…」
「いいか? ローレル…」
二人は笑顔なのに、まったく笑っていなかった。
ローレルが助けを求めるようにこちらを見る。
静かに視線を逸らした。
ローレル、ご愁傷さま。
心の中で十字を切った。
どうやら昼食は、もう少し先になりそうだった。




