表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/96

ネイルって便利?

それから、一行は山道をひたすら歩き続けた。

木々の隙間から差し込む木漏れ日が、足元をまだらに照らす。

風が枝葉を揺らし、鳥のさえずりだけが静かな山に響いていた。

先頭を歩くグラッドの後を追って歩いていると、木々が途切れ、視界がぱっと開ける。

一同は、小さな広場へと足を踏み入れた。

「はーい。じゃあ、この辺りで昼食にしましょうか」

グラッドがパンパンと手を叩き、一同に声をかける。

「了解」

「わかった」

「はーい」

「あーい」

返事が重なると、それぞれが荷物を下ろし始めた。

グラッドの指示に従い、薪を集める者、水を汲みに向かう者、食材を取り出す者と、手際よく役割が分かれていく。

昼食の支度が始まった。


焚き火の上では、大鍋のスープがぐつぐつと音を立てて煮えていた。

昼食の支度も佳境に差しかかった、その時だった。

「あら? 困ったわね」

料理を担当していたグラッドが、頬に手を当てながら辺りをきょろきょろと見回す。

「グラッド、どうしたんだ?」

料理の手際が良いグラッドが困った様子を見せるのは珍しい。思わず声をかけると、グラッドは苦笑いを浮かべた。

「鍋のお肉に火が通ったか確かめたいんだけど、長いお箸をどこに置いたのか忘れちゃったのよ」

「なら、あーしに任せて!」

困っているグラッドの言葉を遮るように、ローレルが胸を張って名乗りを上げた。

何をするつもりなのかと見守っていると、ローレルは迷いなく指先を鍋へ突っ込んだ。

ネイルの先端で器用に肉をつまみ、そのままひょいっと持ち上げる。

「へへーん。便利っしょ?」

得意げに胸を張り、つまみ上げた肉をグラッドへ見せつける。

「便利ね」

「便利だな」

グラッドと俺の感嘆の声が重なる。

ネイルって、そんな使い方もできるのか。

思わず感心していると、ローレルはそのまま肉をグラッドの皿へ乗せようとした。

「ローレル!」

「ローレル!」

スピレアとルドベックの鋭い声が同時に飛び、ローレルの手がぴたりと止まった。

「えっ? ど、どったの? 二人とも…?」

ローレルが恐る恐る振り返る。

「どうしたじゃない!」

「どうしたじゃない!」

再びスピレアとルドベックの怒声がぴったり重なった。

「えぇ? あーし、なんかやっちゃった?」

ローレルはきょとんと首を傾げる。どうやら怒られている理由が本気でわかっていないらしい。

「汚いでしょ!」

「汚いだろ!」

二人はローレルを挟み込むように左右へ回り込む。

「えっ? どしたん? あーし、ちょっと用事が――」

ただならぬ気配を察したローレルが逃げ出そうとする。しかし、一歩踏み出すより早く、左右から腕をがしっと掴まれた。

「いい? ローレル…」

「いいか? ローレル…」

二人は笑顔なのに、まったく笑っていなかった。

ローレルが助けを求めるようにこちらを見る。

静かに視線を逸らした。

ローレル、ご愁傷さま。

心の中で十字を切った。

どうやら昼食は、もう少し先になりそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ