旅立ち
翌日の朝。
カルタム達との約束の場所、アグニスの門の前へやって来た。
集合予定時刻より十分ほど早かったが、グラッド、ルドベック、スピレア、カルタム、そして見知らぬ二人が、すでに集まっていた。
「おう!兄弟!早いじゃねぇか!」
カルタムがこちらに気づき、片手を上げてニカッと笑う。
「おはよう」
挨拶をしながら近づく。
皆も、それぞれ挨拶を返してくれた。
「ところでカルタム、その二人は?」
カルタムの両隣に立つ、同じタンクトップに黒い短パン姿の男達を見ながら尋ねる。
「ああ、この二人はゲンティアンと」
名前を呼ばれたカルタムの右側にいた黒髪短髪の男が、無言でサイドチェストを決める。
「ベルベンだ。」
今度は左側にいた青髪短髪の男が、反対向きにサイドチェストを披露した。
「俺の仲間だ。よろしくしてやってくれ。」
最後はカルタム自身が中央でダブルバイセップスを決め、爽やかに笑う。
なぜ全員ポーズを取るんだ。
「アスターだ。よろしく。」
不思議な光景に首を傾げながら自己紹介を返した。
「兄弟達よ。この街は楽しめたか?」
カルタムが満面の笑みで聞いてくる。
「最高のお祭りだったわ。思わず熱くなっちゃった。」
「いっぱい案内してくれてありがとう。お祭り、すごく楽しかったよ。」
「ローレルに振り回されて、祭りどころではなかった。」
「受け取ってばかりで申し訳なかったけど、楽しい祭りだったよ。」
皆が思い思いの感想を口にする。
「この街を好きになってくれて、本当にありがとうな。」
カルタムは照れくさそうに頭をかいた。
「そんなに喜んでもらえるなら、何か記念品でも用意しておけばよかったな。」
その言葉を聞いた瞬間、剣に付けたキーホルダーが目に入る。
カルタムのおかげで取れたキーホルダー。
しかも、俺はこの街で貰ってばかりだった。
このキーホルダーをカルタムに渡せば、記念品にもなるし、お礼にもなる。
我ながら名案が浮かんだ。
「カルタム。記念品だ。持っていてくれ。」
剣からキーホルダーを外し、そのままカルタムの手に握らせる。
「お、おう…これは…ちょっと、まずいんじゃねぇか? 兄弟。」
カルタムは引きつった笑みを浮かべ、困ったようにキーホルダーを見つめる。
気に入ってもらえなかったのだろうか。
「良いの! 持って行って!」
突然、スピレアが怒ったような声で割って入る。
「いや、しかしだな…」
カルタムは助けを求めるように辺りを見回しながら半歩下がる。
「記念品だから良いの!」
スピレアはさらに一歩前へ出た。
「わ、分かった。と、とりあえず預からせてもらうぞ…」
押し負けたカルタムは、キーホルダーを自分のネックレスへ取り付けた。
「そうだった!俺達、先に行ってやらなきゃならねぇことがあったんだ!」
カルタムが突然何かを思い出したように手を叩く。
「じゃあ、次の街で会おうな!兄弟達!」
そのままカルタム達は足早に去って行った。
「じゃあ、次の街で…」
ゴスッ!
「バカ、アスター!」
スピレアの怒鳴り声と同時に、後頭部へ強烈な衝撃が走る。
「はぁ…」
背後ではグラッドが深いため息をついていた。
視界がぐらりと揺れ、そのまま前へ倒れ込む。
何が起きたんだ…?
朦朧とする意識の中で顔を上げると、半分になったキーホルダーが付いたワンドを握り締めたスピレアが立っていた。
その隣では、グラッドが必死にスピレアを宥めている。
こうして、出発は一日延期となった。




