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激闘(グラッド視点)

※更新時間変更のお知らせ

本日8/1から夜20時更新を17時更新に変更します。

これからもよろしくお願いします。

「姉御…あれは、流石にまずいんじゃねぇか?」

カルタムちゃんの声が、いつもより低く響く。

魔獣の周囲に浮かぶ、五つの光球。

ただ浮かんでいるだけなのに、そこから伝わってくる熱量は異常だった。

距離を取っているアタシ達ですら、肌が焼けるような熱を感じる。

もし、あれが人のいる場所へ飛んだら…

考えるまでもなかった。

「…カルタムちゃん」

一瞬だけ迷う。

御業には何かデメリットがある気がする。

だから、簡単には使わせたくなかった。

でも、この状況で躊躇している余裕はない。

「出し惜しみせずに、御業を使って戦ってくれる?」

口にした瞬間、自分でも分かった。

これは、苦し紛れの選択だ。

だからだろうか。

声は、わずかに震えていた。

「おうよ!」

カルタムは力強く返事をすると、両手の拳を勢いよく打ち合わせた。

ドンッ。

その瞬間、拳を中心に炎が噴き上がる。

腕から。

肩から。

全身へ。

まるで身体そのものが燃え上がるように、カルタムの姿が紅蓮の炎に包まれていく。

「じゃあ、姉御!」

炎の中から、カルタムの声が響く。

「今度は俺についてきてくれ!」

次の瞬間。

地面が爆ぜた。

轟炎を纏ったカルタムが、一直線に魔獣へ向かって駆け出す。

速い。

さっきまでとは明らかに違う。

御業によって引き上げられた力が、動きとなって現れている。

しかし…

「ちょっと速くなったくらいで、浮かれないでほしいなぁ」

魔獣は動かない。

ただ、面倒そうにため息を吐くと、カルタムへ指を向けた。

次の瞬間。

魔獣の周囲に浮かんでいた光球の一つが、音もなく動き出す。

狙いはカルタム。

炎を纏った拳と、灼熱の光球が正面からぶつかる。

カルタムは、迷わず拳を振り抜いた。

ドンッ!

光球が上空へ弾き飛ばされる。

カルタムの足は止まらない。

一つ。

また一つ。

迫り来る光球を拳で弾き飛ばしながら、炎の軌跡を残して魔獣へ迫っていく。

アタシもうかうかしていられない。

そう判断した瞬間、地面を蹴った。

カルタムが、炎の軌跡を残しながら魔獣へ迫っていく。

「うおおおおっ!」

業炎を纏った拳を、カルタムが魔獣の身体へ叩き込もうとする。

決まる!

そう思った瞬間だった。

「はぁ…本当に面倒なんだから」

ため息混じりの声が聞こえる。

次の瞬間。

魔獣の巨大な腕が動いた。

その大きな身体からは想像できないほど繊細な動き。

迫る拳を、まるで払うように掌で受け流す。

カルタムの拳は、魔獣を捉えることなく空を切った。

「なっ…!」

驚くカルタム。

しかし、止まらない。

右。

左。

連続して炎の拳を叩き込む。

けれど、すべて、届かない。

魔獣は最小限の動きだけで、カルタムの攻撃を流し続けている。

まるで、子供の相手をしているように。

「…アタシを忘れてないかしら?」

魔獣の横。

死角へ回り込んだアタシは、拳を握り締める。

カルタムと魔獣がが撒き散らす炎。

それは、ただの攻撃ではない。

火は土を生む。

火生土。

その力を借りて、アタシは拳に土行の魔力を込める。

カルタムちゃんに意識が向いている今なら…

「もらったわ!」

横から、土行の魔力を纏わせた全力の一撃を叩き込む。

確実に捉えた。

そう思った。

その瞬間、魔獣の瞳が、こちらを向いた。

まるで、最初から分かっていたかのように。

次の瞬間。

魔獣の膝が跳ね上がる。

アタシの拳と、魔獣の膝が激突した。

ドォンッ!

爆炎と岩石が同時に弾け飛ぶ。

視界が白く染まる。

熱風が頬を焼き、砕けた岩石が周囲へ降り注ぐ。

そして、魔獣の巨体が吹き飛んだ。

その先にあったのは、民家。

轟音。

建物が崩れ落ちる。

舞い上がった土煙が、魔獣の姿を完全に覆い隠した。

「姉御…やったのか?」

カルタムの声が、静まり返った戦場に響く。

視線の先。

魔獣が吹き飛んでいった民家。

崩れた瓦礫の山からは、まだ土煙が立ち上っている。

カルタムは拳を握ったまま、警戒を解かない。

「…残念だけど、まだだと思うわ」

アタシも同じ方向を見たまま答える。

その瞬間。

ヒュウッ

風が吹き抜ける。

舞い上がっていた土煙が、少しずつ晴れていく。

そして

「けほっ…けほっ…」

瓦礫の奥から、声が聞こえた。

「…なんなわけ?」

ゆっくりと姿を現す魔獣。

身体中から血を流している。

それでも。

怒りも焦りも感じられない。

ただ、面倒くさそうな不満だけが浮かんでいた。

そして、魔獣はゆっくりと瓦礫から這い出てくる。

こちらへ向かっているように見えた。

「…っ」

カルタムが息を飲む。

その瞬間。

「…あれ?」

魔獣が、不思議そうに呟く。

次の瞬間、身体の力が抜けたように、魔獣は前へ倒れ込んだ。

ドサッ。

「えぇ…この身体、もろくない?」

うつ伏せのまま魔獣は、困惑したような声を漏らす。

「ぜんっぜん使えないんだけど!それにさ!ぜんっぜん、可愛くないし!」

状況に似合わない、少女のような愚痴。

アタシもカルタムも、言葉を失う。

そして魔獣は、こちらへ顔だけを向けた。

「はぁ」

魔獣は、ため息を一つついた。

「まあ、いいわ」

「今回も、あんたの勝ちにしてあげる」

その言葉を最後に。

魔獣は静かに目を閉じた。

そして、二度と動かなかった。

「グラッド!」

最初に声を上げたのはスピレアだった。

四人が駆け寄ってくる。

スピレア。

アスター。

ローレル。

ルドベック。

倒れた魔獣とアタシの姿を交互に見る。

「…やったのか?」

ルドベックが、警戒を解かないまま尋ねる。

その声には安堵と、それでも油断できない緊張が混じっていた。

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