魔獣
精霊教会から逃げ出してくる人々の流れに逆らいながら、その場所へと辿り着いた。
目の前に広がっていたのは、初めて訪れた時の活気に満ちた街ではなかった。
あちこちで火の手が上がり、夜空を赤く染めている。
軒を連ねていた屋台は無残に破壊され、燃え盛る炎が残骸を照らしていた。
家々の壁は崩れ落ち、道には瓦礫が散乱している。
そして、この街の象徴である精霊教会までもが変わり果てていた。
屋根は大きく崩れ、かつて荘厳だった建物は、無惨な傷跡を晒している。
先に着いたカルタムが化物と対峙していた。
「カルタム! 加勢するぞ!」
カルタムの隣へ駆け寄り、化物と向き合う。
その化物は、巨大なゴリラのような姿をしていた。
だが、普通の獣とは明らかに違う。
黒く焼け焦げた岩のような皮膚。
その隙間からは赤く揺らめく炎が漏れ出し、まるで全身に灼熱の炉を抱えているようだった。
異様なまでに発達した両腕は、拳を握るたび熱気で空気を歪ませる。
背中には炎のたてがみが燃え上がり、陽炎のようにゆらゆらと揺れていた。
顔立ちはゴリラそのものの獰猛さを残している。
だが、その瞳だけは違った。
燃え盛る炎を閉じ込めたような真紅の双眸が、こちらを鋭く見据えている。
「あれ…何なんだよ?」
あまりにも異様な姿に、思わず足がすくんだ。
「魔獣さ。あいつが、この街を滅茶苦茶にしちまった。」
カルタムが奥歯をぎりりと噛み締める。
「それに、あいつは昔、俺を襲った魔獣なんだ。」
拳を強く握り締める。
「だから、ここは俺に任せてくれ。俺の手で決着をつけたい!」
カルタムの瞳には、揺るがない決意が宿っていた。
だが、どう見ても一人で勝てる相手には思えない。
「いや…あれを一人で相手するのは無理だろ?」
思わず否定する。
「昔、俺を救ってくれた精霊術師は、一人であいつに勝ったんだ!」
カルタムは力強く叫ぶ。
「俺は、その人を超えることを目標にしてきた! だから頼む! 俺一人で戦わせてくれ!」
その言葉からは、長年抱き続けてきた憧れと覚悟が痛いほど伝わってきた。
それでも、不安しかない。
「それによ。」
カルタムはニヤリと笑う。
胸元の五芒星のネックレスを親指で弾いた。
「俺は、御業を授かっているんだぜ?」
その笑みには、確かな自信があった。
そして、こちらの返事を待つことなく、足元で爆炎を弾けさせ、その反動で魔獣へと飛び掛かっていった。




