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カルタムの過去

カルタムの案内は、想像以上のものだった。

祭りで賑わう通りを歩くたび、あちこちから声が飛んでくる。

「カルタム!こっちも食ってけ!」

「おーい!こっちは焼きたてだぞ!」

「しょっぱいものだけだと女の子がかわいそうだろ。ほら、持って行け!」

屋台の店主たちが笑顔で手を振り、料理や飲み物を次々と差し出してくる。

カルタムは慣れた様子で応えながら、それらを俺たちにも気前よく分けてくれた。

「ほら、遠慮すんな!」

焼きたての串焼きに、甘い菓子。

気づけば両手は食べ物でいっぱいになっていた。

どうやらカルタムは、この街で相当慕われているらしい。

金のない身分にとっては、これ以上ない歓迎だ。

ありがたい。

本当にありがたい。

なのに。

何も返せないまま、好意だけを受け取っている自分がいる。

食べ物を受け取るたび、胸の奥がちくりと痛んだ。

そんな少しの罪悪感まで含めて、カルタムの観光案内は最高のおもてなしだった。


祭りをひと通り見て回り、屋台通りから少し外れた人の往来を静かに眺められる小さな公園へやって来た。

夕暮れに染まる広場は祭りの喧騒が少し遠く、どこか穏やかな空気が流れている。

三人で並んでベンチに腰を下ろした。

「カルタムさんって、精霊術師ですよね?」

スピレアが首を傾げながら尋ねる。

「カルタムでいい。」

カルタムは豪快に笑い、親指で自分を指した。

「それに、姉御の仲間なんだろ? だったら兄弟じゃねぇか。敬語もなしだ。」

「はっはっはっ!」

豪快な笑い声が、公園に響く。

「で、精霊術師なのか?」

笑いが落ち着いたところで、流されかけた質問を拾い直す。

「ああ、俺か?」

カルタムは自分の胸元へ手をやる。

「よく分かったな。俺は精霊術師のカルタムだ。よろしくな。」

「このネックレスのおかげだよ。」

スピレアが自分の五芒星のネックレスを手に持って、見せながら言う。。

「ネックレス?…ああ、これか。」

忘れていたかのようにカルタムは自分のネックレスを見下ろし、それから再度スピレアの手にあるネックレスへ視線を移した。

「なるほどな。ってことは、スピレア嬢ちゃんも精霊術師ってわけか。」

「どうして、精霊術師を目指され…」

スピレアは途中で「あっ」と小さく声を漏らし、照れくさそうに笑う。

「じゃなくて…目指したの?」

その問いに、カルタムの表情から笑みが消えた。

「どうして、か……。」

短く呟き、遠くで揺れる祭りの灯を見つめる。

「その話をすると、ちょっと真面目な話になるぞ?」

「ああ。」

俺は静かに頷いた。

「真面目に聞かせてくれ。」

カルタムが精霊術師を志した理由。

それは、とても気になるものである。

もっとも、筋肉で説明されても困るから、釘を差しておいた。

カルタムは照れくさそうに頭をかいた。

「はぁ…ガラじゃねぇんだけどな。」

夕暮れの風が、公園を静かに吹き抜ける。

祭りの賑わいは少し離れた場所から聞こえ、子どもたちの笑い声が心地よく響いていた。

カルタムは、その光景を眺めながらゆっくりと口を開く。

「俺は、この街で生まれて、この街で育った。」

どこか懐かしむように目を細める。

「そんなある日、魔獣が現れてよ。運悪く、俺はそいつと鉢合わせしちまった。」

握り締めた拳に力が入る。

「もう駄目だ…やられる…って思った、その時だった。」

カルタムは小さく笑った。

「豪快な精霊術師と、無口な男が助けてくれたんだ。」

胸元で揺れる五芒星のネックレスへ視線を落とす。

「俺は、その二人に憧れた。」

鍛え上げられた腕を見つめ、自嘲気味に笑う。

「だから男みたいに身体を鍛えてさ。あの精霊術師みたいに、明るく笑える人間になろうって必死だった。」

照れくさそうに鼻をかく。

「そしたらある日、『精霊術師の適性があります』って言われてよ。」

空を見上げながら笑みを浮かべる。

「あの時は、本当に嬉しかったな。少しだけでも、憧れの二人に近づけた気がしたんだ。」

カルタムはゆっくりと立ち上がり、祭りで賑わう街へ視線を向けた。

月明かりに照らされる屋台。

楽しそうに笑う家族。

無邪気に駆け回る子どもたち。

その何気ない景色を、愛おしそうに眺める。

「…俺は、この街が好きなんだ。」

穏やかな声だった。

「ほら、見てみろ。」

カルタムが指差した先では、子どもたちが笑顔ではしゃぎ回っている。

「こういう何気ない景色を見るとよ。」

少しだけ言葉を区切る。

「平和だなって。幸せだなって。安心するんだ。」

その穏やかな表情が、静かな決意へと変わる。

「だから俺は、この景色を後世に残したい。」

拳をゆっくりと握り締めた。

「そのために精霊術師になって、魔王を封印する。」

公園に静寂が落ちる。

誰も言葉を返せなかった。

カルタムの覚悟が、その一言一言から痛いほど伝わってきたからだ。

しばらくして。

耐えきれなくなったようにカルタムが頭をかき、照れ笑いを浮かべる。

「ははっ…調子狂うな。そんな黙り込まないでくれよ。兄弟た…」

ドォォォンッ!!

突如、轟音が響き渡った。

全員が反射的に音のした方角を振り向く。

視線の先、精霊教会。

その屋根の上に、巨大な黒い影が立っていた。

祭りの喧騒が、一瞬でざわめきへと変わる。

カルタムの表情から笑みが消えた。

「…まさか、あいつ。」

次の瞬間には、ベンチを蹴って駆け出していた。

「こうしちゃいられねぇ! 行くぞ、兄弟たち!」

スピレアと顔を見合わせて立ち上がり、カルタムの背中を追って走り出した。

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