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おまじない

「すごいぞ。アスター、さすがだな」

真っ白な世界で目を覚ました。

どこからか、男性の声が聞こえる。

辺りを見回しても、誰もいない。

すると、また声が響いた。

「アスター、どうしてそんなことをするの? あなたは…」

今度は、女性の声だった。

二人の声には聞き覚えがある気がする。

懐かしい。

安心する。

だけど、胸が締めつけられる。

そんな、不思議な声だった。


「はっ…! はぁ、はぁ、はぁ…」

胸を締めつけられるような苦しさと、頭が割れそうな痛みで目を覚ました。

ここは…?

そう思いながら辺りを見渡す。

焚き火を囲み、眠っているルドベック、ローレル、グラッドの姿が目に入った。

見慣れた光景に、ほっと胸をなで下ろす。

しかし、スピレアの姿がない。

周囲を見回すと、少し離れた場所に人影を見つけた。

月明かりに照らされながら、一人座っている。

背中を向けているその姿は、スピレアだった。

何やら一人で、こそこそと手を動かしている。

いたずら心がむくむくと湧いてきた。

足音を殺し、そっと近づく。

「なーにしてるの?」

突然、背後から声をかける。

「きゃっ!」

スピレアが小さく悲鳴を上げた。

慌てて手を開き、何かを隠すようにしながら口ごもる。

「えっと、これは…」

「おまじない?」

さっきまで印を結ぶような仕草をしていたので、そう尋ねてみた。

「うん…そうだよ。秘密のおまじない」

観念したように、ぽつりと答える。

「何それ? 面白そう。どうやるの?」

興味が湧き、スピレアの隣へ腰を下ろした。

「えっと、まずは、こうして……」

スピレアは、一つひとつ丁寧に教えてくれる。

それを真似してみた。

右手の親指で、小さく円を描く。

人差し指で、空中に一本の縦線を引く。

中指と薬指を軽く合わせる。

五本の指を一度握る。

そして手を開き、指先を目元へ運ぶ。

「これは何のおまじない?」

初めてのおまじないに、ますます興味が湧いた。

「悪いものから守ってくれるおまじないって…お母さんが言ってた」

スピレアは、どこか寂しそうに呟いた。

「スピレアのお父さんとお母さんって、どんな人?」

あまり触れられたくない話題だったかもしれない。

そう思い、話題を変えるように尋ねてみた。

「私のお父さんとお母さんは、すっごく優しい人だよ」

そう言って、スピレアは柔らかく笑う。

「アスターは? あっ…ごめん」

話の流れでこちらにも尋ねてしまったようで、慌てて口元を押さえた。

「大丈夫」

小さく笑って答える。

「ちょうど、夢に見たところなんだ」

あの夢は、きっと過去の記憶だ。

あの男女に懐かしさや安心を覚えたのは、きっと両親だったから。

そんな気がした。

「どういう人だったの?」

スピレアは、安心したような、それでいて少し楽しみにするような表情で尋ねてくる。

「『アスター、すごい』って褒めてくれる人だったよ」

夢の中の言葉を思い返しながら答える。

「でも…どうやら喧嘩しちゃったみたいなんだ」

「そっか」

スピレアは優しく微笑んだ。

「仲直りできるといいね」

「そうだね」

返事をした途端、大きなあくびが漏れる。

「ふわぁ…」

「ふふふ」

スピレアがくすっと笑う。

「そろそろ戻ろっか?」

夜風が静かに吹き抜ける。

俺は小さく頷き、スピレアと並んで焚き火のもとへ歩き出した。

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