ルドベックの過去2(ルドベック視点)
私の騎士養成学校での日々に、不満はなかった。
騎士を目指す志の高い仲間とも出会えた。
中には、騎士とは別の道を選んだ者もいた。
しかし、私に迷いはなかった。
私は、そのまま騎士への道を歩み続けた。
騎士としての人生は、順風満帆だった。
このまま努力を続ければ、いつかは司祭や助祭の護衛を任せてもらえる。
そんな未来を疑っていなかった。
騎士の仕事を終えた夕暮れ時。
私は、彼女に出会った。
いや、出会ってしまった。
着崩した服装。
ツインテール。
ゴテゴテとしたネイル。
騎士とは無縁に見える少女だった。
「あー、居た居た。あんたがルドちゃん?」
この出会いが、私の人生を大きく変えることになる。
「あーし、ローレル。よろしくね」
唐突に現れたその女は、そう名乗ると右手をこちらへ差し出してきた。
むろん、無視だ。
私は仕事終わりで疲れている。
それに帰れば、自主鍛錬も待っている。
こんな得体の知れない女に構っている暇はない。
差し出された右手をそのまま放置し、帰路につこうとした。
その時だった。
「あれれ? 違っちゃった? スピちゃん、旅に出るってよ」
ローレルは、気にした様子もなく言葉を続けた。
スピちゃん?
まさか、スピレアのことか?
いや、違う。
スピレアは魔法学校に通っている。
人違いだ。
そう思った瞬間、昔のスピレアの言葉が脳裏をよぎった。
『私は、みんなのために平和な世界にしたいの!!』
『だから、精霊術師になりたいの!!』
旅。
その言葉だけで、嫌な考えが浮かんでしまう。
「スピちゃんとは、誰のことだ?」
気がつけば、足を止めていた。
振り返り、ローレルへ尋ねる。
どうか、スピレアの名前だけは出さないでくれ。
そう願った。
「スピレアちゃんだよ」
彼女は、無情にもその名前を口にした。
旅?
旅といっても、きっと大したものではない。
そうだ。
卒業旅行や修学旅行のようなものだ。
そうであってくれ。
自分の鼓動が、耳元で聞こえる。
背中に嫌な汗が流れる。
そんな状態で、必死に願った。
「スピちゃん、精霊術師の旅に出るって」
ローレルは、受け入れたくない現実を突きつけた。
嫌な予感に限って当たる。
私は、自分の人生を恨んだ。
「詳しく聞かせろ」
ギリリと奥歯を噛み締め、言葉を絞り出す。
「何その顔ー。ちょーウケるー」
ローレルは、可笑しそうに私の顔を指差して笑った。
この女と話していると、調子が狂う。
そんな苛立ちを胸の奥に抱えながら、私は尋ねた。
「スピレアとどういう関係だ?」
「ああ、ただの友達だよ。だから安心して。ほいさ、これ」
ただの友達?
ならば、なぜスピレアが精霊術師の旅に出ることを知っている?
なぜ、私のことまで知っている?
問い詰めようとした時、ローレルは複数枚の手紙を差し出した。
そこには、スピレアの字で私のことが書かれていた。
そして、バルダックから精霊術師の旅へ一人で出発すること。
その日付まで、はっきりと記されていた。
私は目を疑った。
スピレアは、本当に精霊術師の旅へ出るのか?
出発の日まで、時間がない。
私は手紙をローレルへ突き返すと、その場から走り出した。
「ありゃりゃ、行っちゃったよ…」
背後からローレルの声が聞こえた。
積み上げてきた全てを捨てることになる。
そんなことは分かっている。
それでも…
私が、スピレアを守る!
そう自分に言い聞かせながら、その足で騎士団へ向かった。
周囲の反対を押し切り、騎士団を辞めた。
そして、バルダックへ向かおうとした。
いや、久しぶりに会うのだ。
手ぶらではまずいか。
花は、枯れてしまう。
…そうだ!
武器にしよう。
スピレアは、言い出したら聞かない子だ。
きっと旅には出てしまう。
ならば、その時の助けになるものを用意しよう。
そして、同行する。
旅をやめさせるために。
そう考え、私は武器屋へ向かった。
そこで、一番良い品を選んだ。
五行全ての魔石が埋め込まれた、一級品の剣。
一級品なだけあり、驚くほど軽い。
値段は…。
騎士養成学校に入ってから貯め続けた貯金と、ほぼ同額だった。
…まあ、いい。
旅に出るなら、金など持っていても無用の長物だ。
むしろ、ちょうどいい。
それに、これならスピレアも喜んでくれる。
そう確信すると、バルダックへ向かう帰り道の足取りは自然と軽くなっていた。




