旅立ちの朝
「おい!! 不審者!! いつまで寝てやがる!!」
ドンドンドン!!
ルドベックが激しく扉を叩きながら怒鳴る。
その声で、寝過ごしたことを察した。
我ながら昨日のモノマネ、そっくりだったな。
などと自画自賛しながら、ベッドから起き上がる。
「ふふふ。まぁまぁ、まだ時間があるんだから」
扉の向こうから、スピレアの笑い声が聞こえた。
どうやら昨日のモノマネを思い出したらしい。
「スピレア。何が面白いんだ?」
まずい。
怒りの矛先がスピレアへ向いた。
慌てて扉を開く。
「悪い、ルドベック。出発時間を聞きそびれてたんだ」
開けるなり言い訳を口にする。
その時だった。
まだ時間があるんだから。
さっきのスピレアの言葉が頭をよぎる。
…あれ?
俺、寝過ごしてなくないか?
そう思った瞬間だった。
ルドベックが長さ一メートルほどの箱を無言で差し出してきた。
「昨日は…その、すまなかった」
珍しく視線を逸らし、歯切れ悪く続ける。
「これは、その…詫びだ。受け取れ」
勢いに押されるまま箱を受け取る。
…なんだ?
ツンデレか?
首を傾げながら箱を開く。
中には、一目で高価だと分かる剣が収められていた。
手に取る。
見た目に反して驚くほど軽い。
五行の魔石が美しくあしらわれ、白銀の刀身には金色の文字が刻まれている。
柄は細く握りやすく、刀身もやや短く扱いやすい。
…ん?
これ。
女性用じゃないか?
そう思った時だった。
「あっ、それ」
スピレアが声を上げる。
「私が断ったやつだ」
「あっ…」
慌てて口を押さえる。
…もう遅い。
何とも言えない沈黙が流れた。
「と、とりあえず、ありがとう。昨日のことは気にしないでくれ。じゃあ!」
礼だけ言って、勢いよく扉を閉める。
あの空気の中には、一秒たりともいたくなかった。
扉に耳を当てる。
二人が立ち去る足音を確認してから、小さく息を吐いた。
あいつは普通に人を起こしたり、普通に贈り物を渡したりできないのか?
きっと照れ隠しだったんだろう。
そう思い、ため息を一つこぼすと部屋を出た。




