剣筋(ルドベック視点)
川辺へ向かう間、私とグラッドの間に会話はなかった。
川のせせらぎだけが静かに響いている。
「とりあえず、座りましょうか」
促されるまま、私は川辺に腰を下ろした。
「…ありがとう」
小さく礼を言う。
「お礼なんていいわ。それより、ルドベックちゃん。何が分かったのか話してくれる?」
グラッドは真っ直ぐ私を見つめる。
その眼差しは、嘘もごまかしも通じないと言っているようだった。
どうやら、私が剣筋を見てアスターの何かに気づいたことは、お見通しらしい。
自然と肩の力が抜けていく。
さて、どこから話そうか。
頭の中で言葉を整理していると、グラッドが静かに口を開いた。
「あまり、いい話じゃなさそうね」
その一言で、不思議と話しやすくなった。
昔から、この人は人の心を読むのが上手い。
そう思いながら、私は口を開く。
「あいつの剣筋は……」
そこまで言って、言葉が止まる。
脳裏に、先ほどの立ち合いが蘇った。
最初は素人だった。
剣の握り方も危なっかしく、動きも単調だった。
正直、張り合いがないと思っていた。
だが、途中から動きが変わった。
小賢しいことにフェイントを織り交ぜ、こちらを揺さぶるようになった。
そこまでは、まだよかった。
問題は、その先だ。
私が一瞬だけ油断し、隙を見せた瞬間――。
剣筋が変わった。
あれは、人を殺す者の剣だった。
目の前にいたはずの素人が、一瞬で別人に見えた。
恐ろしかった。
このままでは、殺される。
そんな馬鹿な。
素人に殺されるはずがない。
そんなことは、私自身が一番よく分かっている。
それでも、確かにそう感じた。
気づけば私は、反射的にアスターを叩き飛ばしていた。
今思い出しても、背筋が寒くなる。
「剣筋は?」
グラッドが静かに促す。
私は息を整え、覚悟を決めた。
「あの剣筋は…人殺しの剣筋だ」
自分でも分かるほど、声が震えていた。
「そう」
グラッドは短く頷く。
驚く様子もない。
「でも、それならちょうどいいじゃない」
そう言って、ぱんと手を叩いた。
「旅に出れば盗賊だっているわ。頼もしい仲間が増えたと思えばいいじゃない」
「…は?」
思わず間の抜けた声が漏れる。
この人は、本当に私の話を聞いていたのか。
「お前、俺の話を聞いていたのか?危険なんだ!アスターは」
思わず素が出る。
「あっ…」
慌てて口を押さえる。
「だから、どうしたのよ?」
グラッドはきょとんと首を傾げた。
「アナタがスピレアを守るんでしょ?」
俺がスピレアを守る
昔からの私の目標だ。
ふと懐かしく思う。
その一言で、胸の中の迷いが少しだけ晴れた。
…やっぱり、この人には敵わない。
「当たり前だ。俺――」
思わず昔の口調が飛び出す。
「…こほん」
咳払いを一つ。
「私が、スピレアを守る」
7/16
ep.1-12を削除してep.1-4で書き直しました。
それに伴って、ep7とep13を追加しました。
ep1からグラッドとローレルが登場するように調整したため、このような形となりました。
ストーリーに影響は全くございません。




