決闘1
「良いだろう」
俺は、真剣な表情でそう答えた。
そして、すぐに後悔した。
完全に空気に流された…
誰か助けてくれ。
辺りを見回す。
「おー、いいぞー。やれやれー」
ローレルの野次が飛んでくる。
クソギャル。
完全に観客側に回ってやがる。
「あらぁ」
グラッドは小指を立て、頬に手を添えて恍惚とした表情を浮かべている。
その視線に背筋がゾワリとした。
クソオカマ。
なんて顔をしているんだ。
「…」
スピレアは何も言わず、真剣な表情でこちらを見ている。
クソ精霊術師。
何を「見届けます」みたいな顔をしているんだ。
どうやら、味方はいないらしい。
「ちょっと待った」
このままではまずい。
慌てて声を上げる。
「ルール。そう、ルールを確認しよう」
水を差すようで申し訳ないが、一度止める。
ただの時間稼ぎだ。
まだ、ボコボコにされる覚悟なんて決まっていない。
「えー。男らしくないぞー」
ローレルから再び野次が飛んでくる。
クソギャルは黙ってろ。
「ふっ。そうだな。ルールは大切だ」
ルドベックは納得したように頷き、剣を下ろした。
この男。
本当に真面目だな。
少しだけ時間が稼げそうで安心する。
「ふぅ…」
「ふぅ…」
偶然にも、スピレアの安堵の息と重なった。
やっぱり心配してくれていたのか?
少しだけ気になった。
「ルールは単純だ。剣技のみで戦う。それだけでどうだ?」
ルドベックが告げる。
なぜか少し苛立ったような声だった。
なぜ怒っている?
「いや、待ってくれ」
慌てて言葉を挟む。
「俺は剣を握ったことなんてない。それどころか、戦った経験すらないんだぞ。それじゃあ、お前が一方的に有利じゃないか」
持ったことがある刃物なんて、包丁くらいだ。
覚えていないが。
だからこそ、正当な抗議をした。
「ああ、言い忘れていたな。すまない」
ルドベックは少し申し訳なさそうに言う。
「俺には、剣筋を見ることで相手がどういう人間なのか分かるという、少し変わった特技がある」
剣を握る手に力を込めながら続ける。
「たとえ素人でも、その人間がどう生きてきたのかは剣筋に現れる」
そして、真っ直ぐこちらを見る。
「不審者。お前は、自分が何者なのか分からないんだろ?」
その言葉に胸が少しざわついた。
「だったら、この勝負はお前にとっても悪い話ではないはずだ」
ルドベックは真剣な顔で言った。
やはり、この男はバカ真面目だ。
だが、確かに、彼の言葉が本当なら悪い話ではない。
自分が何者なのか。
それを知る手掛かりになるかもしれない。
「それは…」
一つだけ気になることがあった。
「記憶を失っている人間でも分かるのか?」
素直に聞く。
「ああ、分かる」
ルドベックは迷いなく答えた。
「記憶は失っていても、身体は生き方を覚えている。だから、それは剣筋に現れる」
そして、少し表情を和らげる。
「それに安心しろ。俺には、素人を痛めつける趣味はない」
そこで一瞬、間が空く。
「…お前だけは、少し特別かもしれないが」
…ん?
今、何か不穏なことを言わなかったか?
気のせいだろうか。
いや。
きっと気のせいだ。
そう自分に言い聞かせる。
木剣を構え、ルドベックと向かい合った。




