帰還
いや、終ってなかった。
「おい、不審者!! 貴様、どこに行ってやがった?」
教会へ戻ると、そこにはルドベックがいた。
仁王立ち。
額には青筋。
まるで阿修羅のような表情でこちらを睨みつけている。
そういえば、こんな奴もいたな。
なんだか、少し懐かしい気持ちになった。
ルドベックは、こちらを睨みつけたまま怒声を上げている。
「ご、ごめんなさい!」
その瞬間、スピレアが慌てた様子でルドベックへ駆け寄り、深く頭を下げた。
「えー、なになに?激おこじゃん。ウケるー」
ローレルは、この状況を完全に楽しんでいる。
「はぁ…アタシ、もう知らないわよ」
グラッドは大きくため息をつき、額に手を当てた。
どうやら、完全に疲れているらしい。
「いや、スピレアが悪いわけじゃない。悪いのは、そこの不審者だ」
ルドベックが俺を指差して言う。
「でも…私も帰るのが遅くなっちゃったし、心配かけたよね」
先程まで怒りに満ちていたルドベックの表情が一瞬で崩れる。
「いや、それは……」
急に歯切れが悪くなる。
…なるほど。
こいつ、スピレアには弱いのか。
意外と単純な奴だな。
そんなことを考えながら、ついニヤニヤしてしまう。
「気持ちの悪い顔をこちらに向けるな。不審者」
どうやら、その表情を見られていたらしい。
突然、罵倒が飛んできた。
…待て。
こいつ、俺にだけ当たりが強くないか?
そう思っていると、ルドベックが木でできた剣を二本手に持って近づいてくる。
嫌な予感がした。
「あっ…」
これ、絶対にろくでもないやつだ。
「ルドベック!! ちょっと、何する気?!」
スピレアが慌てた声を上げる。
いいぞ、スピレア。
そのまま止めてくれ。
心の中で全力の声援を送る。
しかし、俺の期待とは裏腹に、ルドベックは止まらなかった。
その顔には、確固たる決意が浮かんでいる。
…やばい。
これは本気で来るやつだ。
ボコボコにされる。
そう覚悟して、頭を守るように腕を上げる。
そして、目を閉じた。
次の瞬間。
カラン。
乾いた音が響いた。
続いて、コツンと何かが爪先に当たる。
恐る恐る目を開ける。
そこには、一本の木剣が落ちていた。
「何をしている。不審者」
ルドベックは真剣な表情で言う。
「その剣を拾え」
そして、続けた。
「決闘だ」
「え?」
思わず間抜けな声が出た。
スピレアは、どうしていいのか分からない様子であわあわと慌てている。
ローレルは、おもちゃを見つけた子供のように目を輝かせていた。
グラッドは、呆れたようにため息をついている。
そして、ルドベックは俺を値踏みするような視線で見ていた。
どうやら。
逃げるという選択肢は存在しないらしい。
そう悟った俺は、足元に落ちた木剣を拾い上げた。




