男湯
温泉にたどり着き、無言で湯に浸かる。
気まずい沈黙が、辺りを包んでいた。
「あー…グラッド?」
耐えきれずに声をかける。
しかし、特に話したいことがあるわけではない。
ただ、この空気から逃げたかっただけだ。
「何よ? ただ呼んだだけってやつ?」
グラッドは、こちらの意図を見透かしたようにニヤニヤしながら言う。
当たっていることが腹立たしい。
しかも、否定しづらい絶妙な言い方なのが余計に悔しい。
何か言い返したい。
でも、言葉が出てこない。
そんな時、ふと思い出した。
「そ、そうだ。アインシュ族って何なんだ?」
先ほど話に出てきた謎の民族。
このまま気まずい空気を続けるよりはいいだろう。
「はぁ……アインシュ族について聞きたいのね?」
グラッドは、やれやれと言いたげにため息をつく。
…なんだろう。
何か間違えた気がする。
気まずくなり、無言で小さく頷いた。
「まぁ、いいわ」
グラッドはそう言うと、ゆっくりと話し始めた。
「アインシュ族っていうのは、昔は白髪に赤い目をした民族のことだったわ」
昔は?
その言葉が引っかかった。
「昔はってことは、今は違うのか?」
思ったことをそのまま尋ねる。
「今も特徴自体は残っているわ。でも、今のアインシュ族は……そうね」
グラッドは少し考えるように視線を上げる。
「白髪に赤い目をした人達を中心に、機械文明の復活を目指している集団。そういう感じかしら」
途中で言葉を選んでいるようだった。
きっと、簡単には説明できないことなのだろう。
それでも、こちらに分かるように整理して話してくれる。
ありがたかった。
「それよりも」
グラッドが突然、話題を変える。
「逃げてちゃ駄目よ」
そう言いながら、水鉄砲のように指で水を飛ばしてくる。
「男なんだから、ちゃんと向き合いなさい」
「な、何のことだよ」
分かっている。
スピレアのことだ。
でも、自然と目を逸らしてしまう。
「言わなくても分かるでしょ」
グラッドは呆れたように笑う。
「あの子にも悪いところはあるわ。でも、ちゃんと話せばきっと大丈夫よ」
まるで、まだまだ子供ねと言われているようだった。
グラッドの言葉は、おそらくヒントだろう。
でも。
答えが分からない。
どうすればいいのか。
何を言えばいいのか。
「…どうしたらいい?」
気がつけば、素直に尋ねていた。
「それは自分で考えなさい」
グラッドは即答する。
そして、立ち上がる。
「アタシは先に上がるわね」
そう言って、最後に俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。
そのまま湯船から出ていった。
一人になった温泉で、先ほどの光景を思い出す。
スピレアの涙。
震えた声。
胸が締め付けられる。
ズキン。
胸の奥が痛んだ。
「…何なんだよ」
湯船の中へ身体を沈める。
口元まで湯に浸かり、誰にも届かない声で呟いた。
「分かんないよ」
ゴボゴボと泡が浮かぶ。
仲直りするには、どうすればいいのか。
自分は、一体何者なのか。
この胸の痛みは、何なのか。
考えても、答えは出なかった。




