再会
温泉へ向かうことになった。
そうだ。
温泉へ向かうことになった…はずだった。
なのに、なぜか山道をひたすら登っている。
見渡す限り木、木、木。
申し訳程度に整備された細い山道を歩き続ける。
こんな場所に温泉があったとしても、観光客なんて誰も来ないだろう。
「グラッド、本当にこの道で合ってるのか?」
息を切らしながら尋ねる。
「合ってるわよ。」
グラッドは額の汗をぬぐいながら、あっさりと言った。
「あーし、もう無理ー。」
ついにローレルがその場にへたり込む。
近くの木にもたれかかり、大きくため息をついた。
「ここで待ってるから、三人で行ってきてよ。」
「もう少し、もう少しだから。頑張ろう?ね?」
スピレアがローレルの隣にしゃがみ込み、優しく励ます。
なんとも微笑ましい光景だ。
思わず頬が緩む。
その時だった。
ガサガサッ。
近くの茂みが大きく揺れた。
四人同時に視線を向ける。
「フー…フー…」
現れたのは、山で最初に遭遇したあの化物だった。
嬉しくない再会である。
「魔物!? アスターちゃんも、アタシの後ろに!!」
グラッドが拳を構え、スピレアとローレルを守るように前へ出る。
あれは魔物というのか。
そんなことを考えながら後ろへ下がろうとした、その瞬間だった。
魔物が一直線にこちらへ突っ込んできた。
…なんで俺!?
恨まれるようなことした覚えないぞ!?
慌てて横へ飛び、間一髪で突進をかわす。
「ウケるー。アスちゃん人気じゃん。」
ローレルが座ったまま指を差し、ケラケラ笑っている。
笑い事じゃない。
こっちは死にかけている。
「ローレル!! ふざけないで!!」
グラッドの怒号が飛ぶ。
「ごめんごめん。」
ローレルはようやく立ち上がると、スカートについた土をぱんぱんとはたき落とした。
その間にも魔物は止まらない。
再びこちらへ突進してくる。
グラッドが割って入ろうとする。
だが、間に合わない。
その瞬間。
ゴゴゴッ。
俺と魔物の間に巨大な土の壁がせり上がり、突進を受け止めた。
「えっ!?」
突然現れた壁に思わず目を見開く。
何が起きた?
…まさか。
俺のチート能力!?
少しだけ期待した。
「武器もないグラちゃんとスピちゃんじゃ荷が重いっしょ。」
ローレルがニシシと笑う。
どうやら、この土壁は彼女の魔法だったらしい。
…少し残念だ。
「私も戦う!!」
スピレアが杖も持たず一歩前へ出る。
「だーかーらー。」
ローレルは呆れたように肩をすくめた。
「武器もないのにどう戦うの?それに、あーし達、友達っしょ?だから任せて。」
その一言で、スピレアは何も言えなくなる。
…扱いが上手い。
思わず感心してしまった。
「あー、アスちゃん。」
ローレルが申し訳なさそうにこちらを見る。
「言いにくいんだけどさ、その壁、もう持ちそうにないわ。」
バキッ!!
その言葉と同時に土壁が砕け散った。
もっと早く言え!
魔物が飛び出してくる。
避けられない。
次の瞬間、身体が宙を舞っていた。
「ぷっ。ウケるー。」
ローレルが腹を抱えて笑う。
「アスちゃん邪魔だから、そのまま木の上にいて。」
ふざけるな。
そう言い返そうとした時だった。
ローレルの親指のネイルが淡く光る。
次の瞬間、木々の枝がうねるように動き、空中で受け止めてくれた。
助かった。
…いや、助かってない。
枝が身体に刺さって普通に痛い。
「おーおー。アスちゃん、この子に何したの?めっちゃ狙われてんじゃん。」
木の下では魔物がこちらを見上げながら、ぐるぐると歩き回っている。
ローレルだけが楽しそうだった。
「ローレル!! 大変なんだから、もっと真面目に戦ってよ!!」
ついにスピレアが怒鳴る。
「ごめんごめん。つい。」
ローレルは苦笑すると、中指を軽く立てた。
そのネイルが再び淡く輝く。
直後。
ドサッ。
魔物の断末魔が森に響いた。
戦いは、一瞬で終わった。
「そんじゃ、アスちゃん。下ろすよー。」
枝が左右へ開く。
俺の身体は真っ逆さまに落ちた。
…と思ったら。
「はい、キャッチ。」
気付けば、グラッドにお姫様抱っこされていた。
「アスターちゃん、大丈夫?」
顔が近い。
近すぎる。
ピンチとの再会である。
「大丈夫だから離してくれ!!」
命の恩人とは思えない勢いでもがく。
その時だった。
「フランちゃーん!こっちにいたよー!」
男の声が森に響く。
続いて、女の怒鳴り声。
「フランちゃんじゃない!副総統って呼びなさいって何回言ったら分かるのよ!バカ、ナルシサス!!」
どうやら、また厄介なのが来たらしい。




