巡航
「なあ、お前達も座ったらどうだ? 紅茶もあるぞ?」
ルドベックの笑い声が収まると、ナルシサスが立ち上がり、手にしたポットから紅茶をカップへ注ぎながら声をかけてきた。
「お言葉に甘えましょうか」
グラッドが、スピレア、ルドベック、そして俺を見回して言う。
そして、誰よりも先にソファーへ腰を下ろした。
「…そう、させてもらう」
ルドベックは疲れ切った様子で呟くと、力なくソファーへ腰掛ける。
「うん。失礼します」
スピレアもルドベックに続き、軽く一礼してから腰を下ろした。
そして、俺の方を振り返る。
「ほら、アスターも!」
満面の笑みを浮かべながら、自分の隣の席をポンポンと叩く。
「あ、ああ。お邪魔するね」
少し遅れて、俺もスピレアの隣へ腰掛けた。
その後は、ナルシサスが用意してくれた紅茶を飲みながら、焼き菓子を頂いた。
船が静かに進んでいることすら忘れてしまいそうな、穏やかな時間が流れていた。
そんなゆったりとした空気の中、スピレアがふと口を開く。
「ねぇ、アスター?」
こちらの顔を覗き込むようにして、俺の名前を呼んだ。
その視線が、胸の奥に隠している秘密まで見透かしてしまうような気がした。
俺は慌ててナルシサスに話しかけた。
「なあ、ナルシサス。総統ってどんな人なんだ?」
そう、早口で尋ねると、
「あっ…もう!」
スピレアは不満そうに頬を膨らませた。
しかし、それ以上は追及せず、大人しくソファーへ座り直す。
どうにか逃げおおせたようだ。
「うーん?」
ナルシサスは腕を組み、何かを思い出そうとするように唸った。
しかし、しばらく考えたところで、あっさりと首を傾げる。
「俺様、よく分かんないや」
「…え?」
予想外の答えに、俺は思わず固まった。
ナルシサスはそんな俺の様子など気にすることなく、クッキーを一枚つまんで口へ運ぶ。
「ねぇ、フランちゃん。総統ってどんな人?」
そして、今度はフランネルへと話題を振った。
「…はぁ」
フランネルの深いため息が聞こえる。
「ナルシサス、あなたねぇ…。総統には会っているでしょう?」
呆れたように言う。
「あれ? そうだっけ?」
ナルシサスは首を傾げながら、何事もなかったかのようにクッキーを頬張る。
「そうよ! フランちゃんと一緒に、少なくとも二回は会っているわよ!」
フランネルが少し厳しい口調で言い聞かせる。
「ごめんよ、フランちゃん…」
ナルシサスはしょんぼりと肩を落とし、小さな声で謝った。
そのやり取りが終わると、スピレアが再び口を開くより先に、俺はフランネルへと話題を振った。
スピレアと話していると、胸の内まで全部見透かされてしまいそうで怖かった。
「それで、総統ってどんな人なんだ?」
フランネルに尋ねる。
「どんな人、ねぇ?」
フランネルは少し考え込むようにしてから、俺たちを見た。
「説明するよりも、実際に会ったほうが早いわよ」
そう言って、ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべる。
「それに…総統は、あなた達のほうがよく知っているわよ」




