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高速船

魔物の襲撃はアインステラの人々に任せ、一行はフランネルの案内で船着場へと向かっていた。

やがて、一行は何もない堤防へとたどり着く。

「着いたわよ」

フランネルが振り返り、胸を張って言った。

しかし、辺りを見回しても船らしきものは見当たらない。

「船はどこにあるんだ?」

そう尋ねようとした、その時だった。

ジジ…

フランネルのすぐ側から、微かな機械音が響いた。

すると、何もなかったはずの空間に、ゆっくりと船が姿を現していく。

現れたのは、黒く艶のある流線型の船だった。

まるで巨大な潜水艦をそのまま小型化したような、無駄のないフォルム。

船体には金属の継ぎ目がほとんどなく、ところどころに淡い青色と緑色の光の線が走っている。

二十人ほどが乗り込めそうな大きさだが、それにしては船体があまりにも細く、鋭い。

空気や水の抵抗を極限まで減らすことを目的として作られたのだろう。

それほどの大きさでありながら、船は音を立てることなく、その場に佇んでいる。

今も動いているのか、それとも停止しているのかさえ分からないほどだった。

「おお! 凄いではないか! 流石、アインシュ族の文明だ!」

ルドベックが、妙に演技がかった口調で大げさに声を上げる。

「大丈夫かなぁ…」

その様子を見て、スピレアが不安そうに呟いた。

「ルドベックちゃんなりに頑張っているのよ。見守ってあげましょう」

グラッドはスピレアの肩に手を置き、優しくルドベックを見ながら言った。

すると、

プシュッ…

船体の側面にあった扉が、僅かな音を立てて開いた。

その隙間から、白い光が漏れ出す。

「乗るわよ」

フランネルがそう言って船体へ近づく。

すると、船体から自動的に渡り板が伸び、こちら側へ静かに架けられた。

真っ黒な金属で作られた渡り板には、継ぎ目すらほとんど見当たらない。

フランネルは迷うことなく渡り板を歩き、ナルシサスと共に船内へ入っていく。

「おお、凄いではないか!」

ルドベックも妙に高いテンションのまま、二人の後を追うように真っ先に船内へ足を踏み入れた。

「本当に大丈夫かなぁ…?」

スピレアは、その様子を困惑しながら見つめる。

「大丈夫だといいわね…」

グラッドも少し心配そうに船の入り口を眺めていた。

すると、船内へ入ったはずのルドベックが、ひょこっと入り口から顔を出した。

「何をしているんだ? 早く乗らないか!」

いつものように、少し怒ったような命令口調。

「大丈夫みたい…かな?」

「大丈夫そうね…」

スピレアとグラッドは顔を見合わせる。

いつものルドベックらしい様子が垣間見えたことで、二人の表情が少しだけ柔らかくなった。

しかし、ルドベックは二人が乗り込むのを待つことなく、再び船内へと姿を消した。

そして、船の中から声が響いてくる。

「中は、もっと凄いんだぞ!」

妙にハイテンションな声だった。

「…ダメみたい」

「…ダメね」

スピレアとグラッドは、呆れ半分、諦め半分といった様子でため息をついた。

「まぁ、仕方ないわね。行きましょう」

グラッドが気を取り直して、スピレアへ声をかける。

「うん、行こう」

スピレアも苦笑しながら頷いた。

そして、俺の手を握ると、そのまま船へ向かって引っ張っていく。

「ほら、アスターも行くよ?」

振り返ったスピレアが、笑顔を見せる。

「…うん、そうしようか」

唐突に手を握られたことに、一瞬驚いた。

けれど、その手から伝わってくる優しく温かな感触を拒む理由もなく、俺はそっと握り返した。

そして、その手に引かれるようにして、船内へと足を踏み入れた。

船内へ入ると、そこには細長い客室と操縦室を兼ねたような空間が広がっていた。

部屋の中央には一台の机が置かれ、それを囲むようにソファーが配置されている。

そのさらに前方には、操縦席らしき場所があった。

しかし、操縦席にあるのは黒いハンドルが一つだけ。

計器類はおろか、アクセルやブレーキすら見当たらない。

「出発するから、座っていなさい」

フランネルはそう言うと、迷うことなく操縦席へ腰を下ろした。

すると、

シュン…

操縦席の周囲に、半透明のモニターがいくつも浮かび上がった。

そこには船の速度や周囲の地形だけでなく、魔力の流れまでリアルタイムで表示されている。

さらに、壁面が淡く光り始めた。

次の瞬間、まるで壁そのものが透明になったかのように、船の周囲の景色が一面に映し出される。

「おお…」

「凄いね…」

「凄いわね…」

「凄いな…」

俺、スピレア、グラッド、ルドベックの声が重なった。

そんな俺たちの反応を、フランネルが振り返って眺めている。

「…まあ、良いわ」

満足そうな笑みを浮かべると、再び操縦席へ身体を戻した。

その瞬間だった。

映し出されていた景色が、ゆっくりと動き始める。

音はない。

加速しているはずなのに、身体が座席へ押し付けられるような感覚もない。

あまりにも静かで、あまりにも滑らかな出発だった。

ただ、目の前の景色だけが、どんどん後方へ流れていく。

俺たちは、しばらく呆然とその光景を眺めていた。

やがて、

「…これは、出発しているのか…?」

ルドベックが困惑した様子で呟いた。

その視線の先では、ナルシサスがソファーにゆったりと腰掛け、優雅に紅茶を飲みながらクッキーを頬張っている。

「うん? ああ、もう出発したぞ」

ナルシサスは口をもごもごさせながら、あまりにも呑気に答えた。

「こんな…技術を…」

ルドベックは眉をひそめ、忌々しそうに呟く。

しかし、すぐに勢いよく首を横に振った。

そして、無理やり笑顔を作る。

「凄い! 凄いではないか! わっはっはっはっは!」

芝居がかった口調で大げさに褒め称え、そのまま高らかに笑う。

その笑い声だけが、静まり返った船内に妙に響いていた。

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