判明
「行くと言っても、どうやって?」
ルドベックがフランネルへ尋ねる。
「魔導船を用意しているわ」
フランネルは、何でもないことのようにさらりと答えた。
「ナルシサスも…行くのか?」
ルドベックがナルシサスへ意味深げな視線を向ける。
「ああ、それなら問題ないわよ」
フランネルは、ナルシサスの様子を見て納得したように頷いた。
「ナルシサス、瞳の色を変えて」
そして、ナルシサスへ指示を出す。
「うん、分かったよ。フランちゃん!」
ナルシサスは嬉しそうに答えた。
そして、目を閉じる。
右手の親指で小さく円を描く。
人差し指で空中に縦線を引く。
中指と薬指を軽く合わせる。
五本の指を一度握る。
手を開き、指先を目元へ運ぶ。
以前、スピレアが行っていたおまじないと同じ動作だった。
「これでいいかな?」
ナルシサスが目を開き、フランネルへ尋ねる。
その瞳は、先ほどまでの赤色から、フランネルと同じ黄緑色へと変化していた。
「なっ…」
その光景を目の当たりにしたルドベックが硬直する。
どうやら、スピレアのおまじないと同じ行動ということに気がついたようだ。
「どういうことだ…?」
そして、首だけをスピレアへ向ける。
「騙してて、ごめんね…」
スピレアは、申し訳なさそうに身を縮めながら弱々しく謝った。
「私…アインシュ族とのハーフなの…」
そして、恐る恐る事情を説明する。
「…ああ。だから、お父様とお母様は捕らえられていたのね」
しばらくの沈黙の後、グラッドが納得したように呟いた。
「…ふっ…ふふっ…ははははは!」
突然、ルドベックが壊れたように笑い出した。
「えっと…ごめんね。大丈夫?」
スピレアは戸惑いながらも、心配そうに尋ねる。
「大丈夫だ! 大丈夫だとも! ははははは!」
ルドベックは妙に明るい声で答え、大笑いを続ける。
「大丈夫か…?」
あまりの様子に居ても立ってもいられず、思わず声をかける。
「大丈夫じゃないわよ…」
グラッドが困り果てた様子で代わりに答えた。
「ははははははははは!」
それでも、ルドベックは一人だけ壊れたように笑い続ける。
そして
「…ふぅ」
唐突に笑い声が止まった。
長く息を吐き出すと、ルドベックはゆっくりとスピレアへ視線を向ける。
「うぅ…」
その視線を受け、スピレアは身構えるように身体を強張らせ、ぎゅっと目を閉じた。
「私は今まで、パウロ教が決めたことだけを信じて生き続けてきた」
ルドベックは、静かな口調で語り始める。
「歴史も、地図も、価値観も…すべてだ」
一度言葉を切り、苦しそうに続ける。
「だが、旅をしていくうちに…何が正しくて、何が間違っているのか、分からなくなった」
その声には、悔しさと悲しさが滲んでいた。
「だが…一つだけ、信じられるものはまだ残っている」
ルドベックは、迷いのない目でスピレアを見つめる。
「私がスピレアを守る。この決意だけは、私自身が決めたものだ」
そして、力強く言葉を続ける。
「だからこそ、今はそれだけを信じて進むことにする」
ルドベックは、俺とグラッドへ視線を向けた。
その瞳には、確かな決意が宿っていた。
「スピレアを守る。そのために、力を貸せ。アスター! グラッド!」
次に、フランネルとナルシサスへ視線を移す。
「もちろん、アインシュ族…いや、フランネルとナルシサス。それから…総統とやらにもだ!」
そして、ルドベックは迷いなく言い切った。
「当たり前じゃない」
フランネルは、自信に満ちた表情で言い切った。
「フランちゃんたちは、誰も苦しまない世界を作るために動いているのよ。スピレアだけじゃない。あなたたち全員、誰一人として傷つけさせないわ」
そして、ナルシサスへ視線を向ける。
「そうよね? ナルシサス」
「もちろん!」
ナルシサスは嬉しそうに笑いながら、力強く頷いた。
「俺様は、フランちゃんが決めたことなら何があっても遂行するよ!」
「だから…魔王討伐までは、手を組みましょう?」
フランネルは、ニヤリと笑って尋ねる。
「もちろんだ!」
誰よりも早く、ルドベックが答えた。
「こちらからもお願いするわ」
グラッドも、ほっとしたような笑みを浮かべて頷く。
「お願いします」
スピレアは、深々と頭を下げた。
「…」
そんな中、俺だけは即答できなかった。
…魔王討伐
その言葉が、胸の奥に重くのしかかる。
罪悪感が、良心を締め付けていた。
前を向いている仲間たちを直視できず、俺は思わず視線を落とした。
あまりにも、眩しすぎる。
「…アスターも、いいよね?」
そんな俺の様子に気づいたのか、スピレアが恐る恐る尋ねてくる。
「あ、ああ。もちろんだ!」
俺は慌てて顔を上げ、その場の空気に合わせる。
「全員で…魔王を討伐しよう!」
そう口にした瞬間、胸が押し潰されそうになった。
重い。
苦しい。
痛い。
それでも俺は、無理に笑顔を作るしかなかった。
「…」
そんな俺の顔をスピレアだけは、無言で見つめていた。




