正体
「おはよう 早いわね?」
しばらくぼんやりと天井を眺めていると、フランネルが部屋へ入ってきた。
「…あぁ、おはよう」
重たい頭をゆっくりと持ち上げ、フランネルを見る。
「って、顔が真っ青じゃない!」
俺の顔を見るなり、フランネルが驚いた声を上げる。
「まだ集合まで時間があるんだから、少しソファーで寝てなさい!」
心配そうに言った。
「…そうさせてもらうよ」
今は、素直にその言葉に甘えることにした。
一人でいると、また余計なことを考えてしまいそうだった。
誰かが近くにいる。
それだけで、少し安心できる気がした。
俺はソファーに身体を預け、ゆっくりと目を閉じる。
すると、張り詰めていた糸が切れたように、すぐに意識が遠のいていった。
「うぅ…」
真っ暗な世界で、手足を引き裂かれるような激痛に襲われていた。
ここがどこなのか分からない。
周囲を見回しても、広がっているのは果てのない暗闇だけ。
何も見えない。
何も分からない。
ただ、身体そのものが裂けてしまいそうなほどの痛みだけが、鮮明に感じられる。
「やめてくれ…」
あまりの痛みに顔を歪め、苦し紛れに呟く。
しかし、痛みが弱まることはない。
むしろ、身体の奥まで引き裂かれていくようだった。
その時
暗闇の中に、一筋の光が差し込んだ。
まるで、壁に開いた小さなのぞき穴のようだった。
「誰か…」
助けを求めるように、その光へ近づく。
そして、恐る恐る穴の向こうを覗き込んだ。
そこに見えたのは
キラリと光る、一本のネックレス。
赤。
緑。
黄。
銀。
青。
五つの魔石が、五芒星のネックレスに埋め込まれていた。
「…なんだ、これ…?」
そのネックレスに気づいた瞬間
「アスター! アスター!」
遠くから、誰かが必死に呼ぶ声が聞こえてきた。
その声に引っ張られるように、意識が暗闇から現実へと引き戻されていく。
「アスター!」
目を開けると、スピレアが心配そうにこちらを覗き込んでいた。
どうやら、眠っている間に膝枕をしてもらっていたらしい。
「…スピレア?」
安心したのも束の間
視界の端で、何かがキラリと光った。
赤
緑
黄
夢の中で見たものと、よく似た五芒星のネックレスだった。
それは、スピレアが身につけている精霊術師の証。
「うわあああああ!」
反射的に叫びながら飛び起き、スピレアから距離を取る。
そして、腰の剣へ手を伸ばした。
その瞬間
ゴンッ!
鈍い音が響き、頭に衝撃が走った。
「寝ぼけるのも大概にしないか。愚か者」
背後から、呆れたようなため息交じりの声が聞こえてくる。
どうやら、ルドベックに拳骨を落とされたらしい。
「痛っ!」
殴られた頭を押さえながら振り返る。
「…ごめん」
ルドベックの顔を見たことで、ようやく冷静になった。
「私だけではないだろ?」
ルドベックは、スピレアを指差す。
「…スピレアも、ごめん」
促されるようにスピレアへ向き直り、頭を下げる。
「ううん、いいよ」
スピレアは、まだ心配そうな表情で俺を見ている。
「それより、ずっとうなされてたよ。どんな夢を見ていたの?」
「…」
その言葉を聞いた瞬間、先ほどの夢が脳裏に蘇る。
暗闇。
引き裂かれるような痛み。
そして
五芒星のネックレス。
昨日読んだ手記の内容とも、恐ろしいほど符合していた。
あれが夢だったなら、どれほど良かっただろう。
でも…違う。
あれは、おそらく俺の過去だ。
認めたくない。
認めたくはないけれど
俺は
魔王だ…
その事実を、確信してしまった。
「アスター?」
スピレアが心配そうに首を傾げる。
「あぁ、ごめん」
慌てて意識を現実へ引き戻す。
「俺って、そんなにうなされてた?」
「うん」
「いや、全然覚えてないから分からないけど…きっと、怖い悪夢だったんじゃないかな? ははははは…」
誤魔化そうとすればするほど、不自然に口数が増え早口になっていく。
「そうなんだ…」
スピレアは納得しきれていないようで、不満そうに呟いた。
そして、少しだけ寂しそうに続ける。
「もう、隠し事はなしなんだからね?」
「…!」
その言葉に、心臓が跳ねた。
背中を冷たい汗が伝う。
スピレアは…
どこまで俺のことを知っている?
一抹の不安を抱えながら、それでも俺は笑顔を作った。
そして、嘘を付いた。
「もちろん。隠し事なんてしないよ」




