封印
「ふわぁ…」
昨日は色々ありすぎて、ほとんど眠れなかった。
大きな欠伸をしながら、昨日案内された客室へと向かう。
集合時間までは、まだかなり時間がある。
そのため、部屋には誰の姿もなかった。
俺はソファーに腰を下ろすと、机の上に置かれた手記へ視線を落とした。
「…なんなんだよ、これ…」
ぼそりと呟く。
すると、右手が無意識のうちに手記へ伸びていく。
「…ダメだ!」
慌てて左手で右手首を掴み、そのまま無理やり止めた。
怖い。
昨日読んだ内容だけでも、自分の記憶と結びついてしまいそうな情報があった。
これ以上読めば、本当に自分の正体に辿り着いてしまうかもしれない。
それでも…
他に何が書かれているのか、気になって仕方がなかった。
「…別の本なら…」
そんな誘惑に負けて、俺は昨日とは違う本へ手を伸ばした。
手に取った本は、見た目からして昨日の手記よりもさらに古い。
表紙には長い年月を感じさせる傷や汚れが目立っていた。
「…これなら、まだ大丈夫だろ」
自分に言い聞かせるように呟き、慎重にページをめくっていく。
パラ…
パラ…
古びた紙をめくっていくと、あるページで手が止まった。
そこには、大きく見出しが記されていた。
『魔王達の封印と人柱について』
「封印と…人柱…?」
眉をひそめながら、呟いた。
嫌な予感しかしない。
ドクン
ドクン
鼓動が、いつもより大きく、そして速くなっていく。
読みたくない。
けれど、読まなければならない。
そんな矛盾した感情が、胸の中で激しくぶつかり合う。
「ふぅ…」
深く息を吐き出す。
そして、意を決してページへ視線を落とした。
そこには、こんな一文から記されていた。
『勇者一行が行った封印は、完璧なものではないと説明を受けた』
「…どういうことだ?」
不審に思いながら、さらに読み進める。
『魔王と魔族達は封印された。しかし、時間が経てば力を取り戻し、復活してしまう』
「魔王と魔族が…復活する?」
思わず声が漏れた。
さらに、その下へ視線を移す。
『復活を阻止するには、定期的に魔王と魔族達の力を削がなければならない』
『そのため、自動的に力を削ぐ機構も組み込んではいる』
『その代償として、強力な獣のような魔物が生み出されてしまう』
「強力な獣のような魔物…?」
その一文に、心当たりがあった。
「…魔獣のことか?」
推測しながら、さらにページを読み進める。
『しかし、それだけでは足りない』
『封印魔法には、純粋な魔力を供給し続け、強化と修復を繰り返さなければならないからだ』
「純粋な魔力…?」
ここに来て、聞き慣れない言葉が出てきた。
意味が分からず、眉をひそめる。
それでも、読み進めるしかない。
『魔族達には、人間が持つ純粋な魔力を封印術に与えてやれば、何とか維持できるだろうとのことだ』
『しかし、問題は魔王である』
『奴の力はあまりにも膨大で、多くの人間の純粋な魔力を必要とする』
『必要となるのは、何千人もの魔力だ』
『純粋な魔力を持つ人間には限りがある』
『そのため、膨大な量の純粋な魔力を供給し続けることは、現実的に不可能である』
「…なんなんだよ、これ…」
あまりにも重い内容に、思わず呟いた。
『そこで、魔族達の力を利用することにするとのことだ』
『幸いにも、魔族達は五行の力を持っている』
『そのため、純粋な魔力を持ち、なおかつ魔力容量の大きい者に、魔族の力の一部を削ぎ取り、譲渡する』
『五行の魔族全員から力を削ぎ取れば、一人の人間に膨大な純粋な魔力を集めることができる』
『それを利用し、魔王の封印を強化することとする』
「…これって、精霊術師のことか…?」
本に書かれた情報と、これまで旅の中で得てきた知識が、頭の中で一本につながっていく。
魔族。
五行。
精霊。
精霊術師。
そして…
封印。
嫌な予感が、さらに強くなる。
震えそうになる手を押さえながら、次の文章へ視線を移した。
『そして、魔王の力も削ぎ取る必要がある』
「…そうだよな…」
その先を読む。
『これを行えば、人間ではその力に耐えきれず■■■■■■』
「…」
最後の一文だけが、何かに塗り潰されていた。
まるで
誰かに、意図的に消されたかのように。
『この役目を担ってくれる人間には申し訳ないが、人柱になってもらいたい』
『人類の発展のために』
そこで、手記は終わっていた。
「…人柱か…」
精霊術師が命を落とす理由も、その存在が生まれた理由も理解できた。
けれど…
納得はできなかった。
誰かが生きるために、別の誰かが犠牲になる。
そんな仕組みを、簡単に受け入れられるはずがない。
俺はぼそりと呟くと、ゆっくりと本を閉じて机へ置いた。
そして、ソファーの背もたれに深く身体を預ける。
「…」
天井を見つめたまま、何も考えられなくなる。
あまりにも多くの情報が一気に押し寄せてきたせいで、頭の中が追いついていない。
今はただ
この事実を整理するための時間が欲しかった。




