日記
あまりにも衝撃的な事実を知ったせいか、ここまでどうやって移動してきたのか、まるで覚えていなかった。
ただ呆然としたまま、フランネルの後を追い、どこへ向かっているのかも分からないまま歩いていた。
「この部屋で、ちょっと待ってなさい」
フランネルに案内されたのは、ソファーと机だけが置かれた真っ白な応接室だった。
フランネルとナルシサス、クロマルは部屋の中には入らず、そのまま廊下の奥へと歩いていく。
グラッドとルドベックと顔を見合わせることもなく、ふらふらとソファーまで歩いて腰を下ろした。
「…スピレア」
思わず、ため息交じりに名前を呟く。
すると、しばらくしてフランネルが戻ってきた。
手には、数冊の古びた本のようなものを抱えている。
「魔王討伐をするなら、何か参考になるかもしれないわよ」
そう言って、フランネルは机の上に本を置いた。
そして、少し意味深な笑みを浮かべる。
「…読めればだけどね」
それだけ言い残すと、フランネルは再び部屋を出ていった。
「…これは、なんて書いてあるのかしら…?」
グラッドが何気なく本を手に取り、ページを開いた。
隣ではルドベックも一緒になって覗き込んでいるが、二人とも文字の意味が分からないらしく、揃って首を傾げている。
気分転換にでもなればと思い、二人の後ろから本を覗き込んだ。
その瞬間
ドクンッ!
心臓が、大きく跳ねた。
そこには、少し崩れた文字で書かれていた。
日本語。
間違いない。
そして、そこにはこう記されていた。
『アグニス、ツチガルド、イズーナ、サカリウム、ビワリア。
五名の魔族を利用するなと訴える団体が現れた。
この団体は、どうやら漏洩した文章から魔族のことを知ったらしい。
これ以上動きが大きくなっても面倒だ。
早いところ、異端者として粛清してしまおう。
魔族の封印の件も、世間に知られている可能性があるな。
どうしたものか…
そうだ。
精霊という名前を与え、あえて公表しよう。
そうすれば、民衆も受け入れるだろう。
ついでに、同じことが起こらないように、文字も精霊文字として新しく作ることにしよう。
忙しくなるな。』
どうやら、かなり古い手記のようだった。
「…」
ドッドッドッ。
自分の鼓動が、鼓膜を直接叩いているように聞こえる。
全身から嫌な汗が噴き出してくる。
魔族の名前。
見覚えがある。
いや
知っている。
以前、夢で見た。
あの夢が、もし自分の記憶だったとしたら…
それじゃあ、まるで…
俺は…
「…いや」
そんなはずはない。
俺は、転生者だ。
そうだ。
俺は転生者なんだ。
だから…
これ以上、考えるのはやめよう。
「…ふぅ」
頭の中に浮かびかけた答えから逃げるように、深く息を吐いた。
「アスターちゃん、顔色が悪いわよ? 大丈夫?」
グラッドが、俺の異変に気づいて心配そうに声をかけてくる。
「ああ…大丈夫」
そう答えようとした、その時だった。
カチャ。
扉が開いた。
「心配かけちゃって、ごめんね」
申し訳なさそうに目を伏せながら、スピレアが部屋へ入ってきた。




