結末
空から見るアインステラの街並みに目を輝かせていた、その時だった。
ふと、一つの疑問が頭をよぎる。
「…あれ? アインシュ族は、勇者の末裔なんだよな?」
「そうだが、それがどうした?」
ナルシサスが不思議そうに首を傾げる。
「だったら、どうして精霊術師を襲うなんて、魔王側のような行動を取っているんだ?」
頭に浮かんだ疑問を、そのまま口にした。
その瞬間
車内の空気が、一気に凍りついた。
ルドベックは、こちらを見ようともしない。
「えっ…? まさか、精霊術師について知らないの…?」
フランネルが恐る恐る尋ねてくる。
「精霊術師って、魔王を封印するために精霊の力を借りて旅をしているんだろ?」
今さら、どうしてそんなことを聞くのか不思議に思いながら答える。
「封印って…どうやるの?」
フランネルが、ゆっくりと問い返してきた。
「封印…? さぁ?」
そういえば、具体的にどうやって封印するのかなんて聞いたことがなかった。
そんな呑気なことを考えながら答える。
「…命と引き換えに行うのよ」
フランネルが、小さな声で呟いた。
「…は?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
「なんだって…?」
耳を疑う。
命と引き換え?
誰の命が?
疑問が次々と頭の中に浮かんでくる。
それと同時に、頭の先から血の気が引いていくのを感じた。
「だから、精霊術師は御業を使って、自分の命と引き換えに魔王を封印するの!」
フランネルが、声を張り上げた。
聞き間違いではなかった。
精霊術師は…
死ぬ。
スピレアは、今までどんな気持ちで旅をしていたんだろう。
そう考えると、胸が締め付けられるように痛んだ。
それと同時に、怒りが込み上げてくる。
「ルドベック…お前は、なぜ…」
反射的に、ルドベックへ掴みかかろうとした。
しかし
『スピレアに、この危険な旅を辞めさせるために同行した』
ジェノセキで交わした会話が、脳裏をよぎった。
動きが、ぴたりと止まる。
「…ルドベックは、知っていたんだな?」
静かに尋ねる。
「ああ…」
ルドベックは、暗い声で短く答えた。
「だから、スピレアに旅を辞めさせようとしていたんだな?」
「そうだ」
その答えを聞いて、ようやく納得できた。
ならば、これ以上ルドベックを責める理由はない。
しかし
問題は、グラッドだった。
このクソオカマは、なぜスピレアの旅に反対していない?
今度は標的をグラッドへと変える。
「グラッドは、どうしてスピレアと旅をしているんだ?」
グラッドを睨みつけ、低い声で尋ねる。
「アタシは、スピレアを支えるためよ」
グラッドは、あっさりと答えた。
そのあまりにも軽い態度が、逆に癪に障った。
「スピレアが最後には死ぬのにかよ!」
思わず、大声で怒鳴りつけてしまう。
「死なないわよ」
グラッドは、迷いなく答えた。
「…は?」
あまりのことに、思考が止まった。
何を言っているんだ?
グラッドも、精霊術師の最後を知らなかったのか?
それとも、フランネルの話を聞いていなかったのか?
様々な疑問が頭の中を駆け巡る。
「アタシ達の目標は、魔王の封印じゃなくて討伐でしょ?」
グラッドはそう言うと、拳をぎゅっと握りしめた。
「だったら、死なない…というか、死なせないわよ」
決意のこもった瞳で、真っ直ぐにこちらを見る。
「魔王討伐…俺が言い出したんだったな…」
その言葉を聞いた瞬間、昔、仲間たちと交わした会話が蘇った。
だから、あの時スピレアは魔王討伐にこだわったのか。
知らなかったとはいえ、随分と無責任なことを言ったものだ。
少しの後悔を覚えながら黙り込んでいると
「魔王討伐…?」
フランネルが、驚いたように呟いた。
「本気なの…?」
「スピレアを助けるためだもの。もちろん本気よ」
グラッドが力強く答えた。
その言葉を聞いたフランネルは、しばらく何かを考えるように黙り込んだ。
そして、意味深な表情を浮かべながら短く答える。
「そうなのね。分かったわ」




