車
ライブは大熱狂のまま終演を迎えた。
ライブが終わると、ドームの屋根がゆっくりと開いていく。
先ほどまで会場を満たしていた熱気が、開放された屋根から外へ逃げていくように、少しずつ静けさが戻ってきた。
観客たちはスタッフの案内に従い、順番に列を作って会場の外へと向かっていく。
そんな中、
「それじゃあ、そろそろ向かいましょうか」
フランネルが外へ出るよう促してきた。
「そうね」
「案内を頼む」
ライブの間に気持ちを整理できたのだろう。
グラッドとルドベックも、すっかりいつもの調子を取り戻していた。
二人の様子にホッと一安心し、フランネルに尋ねる。
「どこへ向かうんだ?」
「スピレアがいる研究都市よ」
「研究都市?」
聞き慣れない言葉に、思わず聞き返した。
「ごめんなさい。病院って言ったほうが分かりやすいわね」
「どういうことだ?」
研究都市と病院がどう結びつくのか分からず、首を傾げる。
「アインステラで一番大きな病院がある一帯を、研究都市って呼んでいるの。そこでスピレアのパパとママの健康状態を診てもらったのよ。だから、今からそこへ向かうの」
フランネルが事情を説明してくれた。
「なるほどな。それで、歩いてどれくらいなんだ?」
事情を理解したところで、具体的な距離が気になって尋ねる。
「歩いたら…一時間以上じゃないかしら?」
フランネルは少し考えるように首を傾げながら答えた。
「一時間以上!? そんなに歩くのか!?」
思わず声が大きくなる。
一時間以上。
今からその距離を歩くことを想像しただけで、気が遠くなりそうだった。
「ふふん。歩かないわよ」
フランネルは得意げに胸を張った。
「じゃあ、どうするんだよ?」
「車に乗って行くのよ」
そう言った直後だった。
空けられたドームの上空から、こちらへ近づいてくるものが見えた。
それは、先ほど大通りで見かけたものと同じ、卵のような形をした浮遊する車だった。
車体は地面に触れることなく、青白い光を放ちながらこちらへ滑るように近づいてくる。
やがて窓の前で静かに停止すると、音もなく扉が開いた。
「じゃあ、行きましょう」
フランネルは当然のように乗り込み、こちらへ手招きする。
近未来的な乗り物を間近で見て、胸が躍った。
「…これに乗るのか…?」
一方、ルドベックは顔を引きつらせたまま、その場から動こうとしない。
どうやら、まだ機械に対する抵抗感は残っているらしい。
「今さらじゃない。ほら、乗りましょう」
グラッドは呆れたように言うと、ルドベックの背中を押す。
「お、おい! 待て!」
そのまま半ば強引に車内へ押し込んだ。
続いてナルシサスとクロマルも乗り込む。
全員が乗ったことを確認すると、フランネルは運転席の方へ声をかけた。
「全員乗ったわね。出発よ!」
その言葉と同時に、浮遊車が静かに動き出す。
先ほどまで開演の熱気に包まれていたドームを後にし、青白い光を放ちながら空中を滑るように進んでいった。




