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精霊術師の終着点 〜 短い言葉に込めた重い物語 〜  作者: ワイパス
アインシュ族
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歴史

「アインシュ族…いや、この世界の歴史を、どこまで知っている?」

ナルシサスが、ゆっくりとした口調で尋ねる。

「世界の歴史?」

ルドベックが、その言葉にぴくりと反応した。

「この世界が、どうやって作られたのかだ」

「…馬鹿にしているのか?」

ルドベックが眉をひそめる。

「だったら、教えてくれ」

ナルシサスは動じることなく言葉を続けた。

「お前たちが信じている歴史を」

「…」

ルドベックはしばらく黙っていたが、やがて淡々と語り始めた。

「人間は機械を作り、自らのために環境を破壊し、快楽に溺れた」

一つ一つの言葉を確かめるように、静かに話す。

「その罪によって、魔王が生み出された」

「それで?」

ナルシサスは先を促す。

「その魔王は破壊の限りを尽くし、人類は滅亡の危機に瀕した」

ルドベックは続ける。

「それを哀れに思われた神々が、聖霊様を遣わされた。そして、聖霊様とパウロ教によって魔王は封印され、世界に安寧が訪れた」

そこで、ナルシサスが口を挟む。

「なるほどな」

そして

「だったら、魔王を封印したのは誰だ?」

先ほどまでとは明らかに違う。

まるで、ここからが本題だと言わんばかりの速さだった。

「勇者様の名は、恐れ多くて語れない。お前たちも知っているだろ?」

ルドベックは眉をひそめる。

「それが、どうしたというんだ?」

「だったら、その子孫はどうしている?」

「その子孫…?」

ルドベックが困惑したように呟く。

「そうだ」

ナルシサスは淡々と続ける。

「それだけ偉大なことを成し遂げたんだ。その子孫が崇め奉られていても、おかしくはないだろ?」

「…」

ルドベックが黙り込む。

「…それは、記載がない」

やがて、弱々しい声で答えた。

「当然だ」

ナルシサスが静かに言う。

「その子孫こそが。俺様たち、アインシュ族だからな」

その言葉が、静まり返った部屋に落ちた。

「…どういうことかしら?」

黙り込んでしまったルドベックに代わり、グラッドが口を開いた。

「魔王を封印できるほどの力を持つ者たちだ。恐れるのは当然だろ?」

ナルシサスが静かに答える。

「ええ…そうね」

グラッドも、一度は納得したように頷く。

「だから、勇者と呼ばれた人間たちが死んだ後、力が弱まった孫やひ孫たちを迫害し始めたんだ」

「…どうして、それが迫害につながるのかしら?」

グラッドが食い下がる。

「理由は二つあると言われている」

「二つ?」

グラッドが眉をひそめる。

「あくまで推定だがな」

ナルシサスは前を向いたまま、ゆっくりと説明を始めた。

「まず一つ目。魔王という共通の敵がいなくなったことで、人類は再び一つにまとまることが難しくなった」

「…」

「だから、もう一度団結するために、共通の敵が必要になったんだ」

「特別な力を持つ子孫たちが、ちょうどよかったということ?」

グラッドが険しい表情で尋ねる。

「そういうことだ」

ナルシサスは小さく頷いた。

グラッドが理解してくれたことが嬉しかったのか、その表情がほんの少しだけ和らぐ。

「…もう一つは?」

「復興のための労働力だ」

ナルシサスは淡々と答える。

「つまり、奴隷が必要だったんだ」

「…そんなの、犯罪者たちでいいじゃない!」

グラッドが怒りを滲ませ、声を荒らげる。

「犯罪者が、素直に命令に従ってくれると思うか?」

ナルシサスは静かに問い返す。

「それは…分からないじゃない」

グラッドが噛みつくように答える。

「指示に従える人間は、そもそも犯罪を犯しにくい」

ナルシサスは、淡々と続ける。

「違うか?」

「それはそうね…」

グラッドが険しい顔のまま頷く。

「だったら、犯罪者は素直に命令に従いにくい、そうは言えないか?」

「そんなの、詭弁じゃない!」

グラッドが即座に言い返す。

「詭弁かもしれない。だが、事実でもある」

「…」

グラッドは歯を食いしばり、何か言いたげにナルシサスを見つめる。

やがて反論を飲み込み、続きを話すよう促すように視線を向けた。

「だから、罪のないアインシュ族を奴隷として使いたかったんだ」

「特別な力を持っているのでしょう? だったら、反抗することだってできたはずよ!」

グラッドが声を荒らげる。

「確かに、できたのかもしれない」

ナルシサスは否定せず、ゆっくりと頷いた。

「でもな…大半の者は、『運が悪かったんだ』とか『生きていれば、いつか救われる』とか…そうやって自分に言い聞かせて、奴隷という身分を受け入れたんだ」

「…そんな…」

グラッドは、あまりの話に言葉を失う。

ナルシサスは、しばらく黙っていた。

「…事実、俺様も奴隷だった頃は、自分にそう言い聞かせていた」

そして、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて低く呟いた。

「そして、時代が進むにつれて、パウロ教の呪縛も強くなった」

ナルシサスはグラッドとルドベックを気にすることなくさらに続ける。

「…呪縛?」

ルドベックとグラッドは、俯いたまま完全に黙り込んでいた。

代わりに、口を開く。

「アインシュ族は、機械を使う反逆者である。そういう教えだ」

ナルシサスは、淡々と言葉を続ける。

「あの教えのせいで、『自分たちは先祖の罪を償わなければならない』と考える従順なアインシュ族の奴隷が増えていったんだ」

「…なるほどな」

あまりにも重い話に、それしか返すことができなかった。

ナルシサスはしばらく黙っていた。

そして、静かな声で締めくくる。

「これが、この世界の歴史だ」

「そして…これが、アインシュ族が迫害されてきた歴史だ」

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