一触即発
会場を見下ろせるガラス張りの廊下を、アインシュ族のスタッフに案内されながら進んでいく。
ガラス越しに見下ろすと、巨大な会場の中央にはステージが設置されていた。
すでに会場入りしている人々の手には、出演者の名前が入ったペンライトやグッズが握られている。
色とりどりの光があちこちで煌めき、開演前だというのに会場は熱気に包まれていた。
「こちらをお使いください」
スタッフが一つの扉の前で立ち止まり、にっこりと笑う。
そして、扉を開けてくれた。
「…」
中へ入ると、赤い絨毯が敷かれた豪華な部屋が広がっていた。
落ち着いた照明に、上質な調度品。
どう見ても、一般席とは別格の空間だ。
「…凄いわね」
グラッドが思わず呟く。
「これ、本当に福利厚生なのか…?」
こちらも部屋を見回しながら呟いた。
「ふふっ。せっかくだから、会場の空気も味わいましょうか」
フランネルは楽しそうに笑うと、大きなガラス窓の横に設置されていたリモコンを操作した。
すると
音もなく、ガラス窓がゆっくりと開いていく。
「…!」
その瞬間。
観客席から響く話し声や、開演前に流れている音楽が一気に大きくなった。
さっきまで遠くに聞こえていた歓声が、すぐそばまで迫ってきたようだった。
「…すげぇ」
目の前に広がる巨大な会場と、その熱気に思わず息を呑む。
開演前だというのに、会場全体のボルテージは非常に高まっていた。
その時だった。
それまで黙っていたルドベックが、口を開いた。
「…これほどの技術を持ちながら、なぜ地下にこもっている?」
「…どういう意味だ?」
ナルシサスの眉が、ぴくりと動く。
声も、先ほどまでとは明らかに違っていた。
「こんな技術を持っていて…何をしたいんだ?」
ルドベックも、訝しむような低い声で問い返す。
「決まっているだろ」
ナルシサスは、ゆっくりと言葉を選ぶように答えた。
「俺様たちは、ただ静かに、豊かに暮らすために技術を磨いているんだ」
その瞬間、部屋の空気が冷たくなったように感じた。
「…それだけか?」
ルドベックが、わずかに敵意を滲ませた視線をナルシサスへ向ける。
「何が言いたい?」
ナルシサスも警戒するように尋ね返す。
「戦争を始めるための技術じゃないのか?」
ルドベックが、単刀直入に言い放った。
「…!」
ナルシサスの手が、自分の剣へ伸びる。
その瞳には、明らかな怒りが宿っていた。
それを見たルドベックも、反射的に剣へ手をかける。
「ナルシサス! 止まりなさい!」
「ルドベックも落ち着いて!」
フランネルとグラッドが、慌てて二人を制止する。
「…」
「…」
しばらく睨み合っていた二人だったが、やがて同時に剣から手を離した。
「ふぅ…」
「ふぅ…」
二人が武器を収めたのを確認し、フランネルとグラッドも安堵したように息を吐く。
「フランちゃんたちは、戦争なんてする気はないわよ」
フランネルが改めて口を開いた。
そして、ナルシサスへ視線を向ける。
「戦争をしない理由は、ナルシサスから話してもらったほうが説得力があるわよね?」
ナルシサスは、その視線の意味を理解したように小さく頷いた。
「…任せてよ」
そして、静かに語り始めた。




