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精霊術師の終着点 〜 短い言葉に込めた重い物語 〜  作者: ワイパス
アインシュ族
122/129

街並

「まずは、アインステラ最大のイベント会場に向かいましょうか」

しばらく街の中を歩いていると、フランネルが振り返って提案してきた。

「イベント会場?」

こんな高度な文明を築いている街のイベント会場だ。

きっと、今まで見たこともないような設備が並んでいるに違いない。

そう考えると、自然と胸が躍った。

「そうよ。スポーツの大会やコンサートなんかが、いろいろ開催される場所よ」

フランネルは歩きながら、イベント会場について簡単に説明してくれる。

「そうね…たしか、今日はコンサートがやっているんじゃない?」

少し考え込んだあと、フランネルが自信なさそうに言った。

「おお! 行きたい!」

思わず反応する。

しかし、すぐに一つの問題が頭をよぎった。

「…けど、当日券って売っているのか?」

「ふふん」

フランネルが足を止め、こちらを振り返る。

「フランちゃんを誰だと思っているのよ?」

そして、自信満々に胸を張った。

「副総統よ」

「流石、副総統!」

その自信に満ちた言葉を頼もしく思い、思わずおだててしまう。

「任せておきなさい」

フランネルは満足そうに笑う。

そんなフランネルの後ろを、期待に胸を膨らませながらついていった。


大通りには、広く整備された道路が建物の間を真っ直ぐに伸びている。

そこを行き交う人々が乗っているのは、キックボードや自転車によく似た乗り物だった。

しかし、どれもタイヤがない。

地面から少し浮いた状態で、音もなく滑るように進んでいる。

そして、頭上にも様々な乗り物が飛び交っていた。

羽根のないドローンのような機械。

卵のような形をした車。

それらが空中を縦横無尽に行き交い、立体的な交通網を作り上げている。

交差点の上には、巨大な表示板まで浮かんでいた。

そこには色鮮やかな映像が次々と映し出されている。

新製品の広告。

街で開催されるイベントの案内。

見たこともない商品の宣伝。

どれも、この世界に存在するとは思えないほど未来的なものばかりだった。

まるで、ファンタジーの世界に突然、未来都市が現れたような光景。

それに圧倒されながら、ただ街並みを眺めていた。

すると

「フランちゃん、サインちょうだい!」

「フランちゃん、一緒に写真撮ろうよ!」

「フランちゃん、応援してます! 頑張ってください!」

周囲から、次々と声が飛んできた。

どうやら、フランネルに気づいたらしい。

ノートを差し出してサインを求める人。

握手を求める人。

一緒に写真を撮りたがる人。

中には、遠くから手を振りながら声援を送る人までいる。

フランネルは、どうやらこの街の人々からかなり慕われているようだった。

「フランちゃん!」

「フランちゃん、こっち向いて!」

名前を呼ばれるたびに、フランネルは律儀に同じ言葉を返す。

「フランちゃんじゃなくて、副総統と呼びなさい!」

そのたびに

「キャーッ!」

「生の『副総統と呼びなさい』貰っちゃった!」

「やっぱりフランちゃん最高!」

黄色い歓声が街に響き渡る。

「…」

フランネルの眉間に、みるみる皺が寄っていく。

「はぁ…バカナルシサスのせいで…」

そして、怒りに肩を震わせながら呟いた。

「あれ? 外地の人?」

フランネルを囲んでいた女子高校生らしきアインシュ族の一人が、こちらへ声をかけてきた。

「外地?」

聞き慣れない言葉に、思わず首を傾げる。

「ああ、地上の人?」

「そういうことか。そうだよ」

こちらにも伝わるように言い直してくれたので、短く答える。

「地上って、やっぱりここよりも遅れているの?」

少女は興味津々といった様子で、目を輝かせながら尋ねてきた。

「うん。ここよりは遅れているね」

「なぁんだ。やっぱりそうなのか」

答えを聞いた途端、少女は露骨に肩を落とした。

「地上に興味があったの?」

その反応が不思議で、尋ねてみる。

「知識として、ちょっと気になってただけだけどね」

「外に出てみたいとかじゃなくて?」

期待を込めて尋ねると、少女はきょとんとした顔をする。

そして、すぐに笑いながら手を振った。

「外に出る? ないない」

「どうして?」

こういう時は、「一度でいいから外の世界を見てみたい」なんて答えが返ってくるものだと思っていた。

けれど、どうやら現実は想像とは違うらしい。

「どうしてって…こっちのほうが便利だしさ」

少女は、そんなこと説明しなくても分かるでしょ、と言いたげな顔をする。

「逆に、出る意味ある?」

「…」

言われてみれば、その通りかもしれない。

アインステラには高度な魔導技術があり、生活に必要なものは何でも揃っている。

わざわざ不便な地上へ出る理由など、確かに見つからない。

「…海とか、山とか。自然と触れ合えるんじゃない?」

しばらく考えた末、ようやく地上のほうが優れていそうなものを思いつく。

しかし、自信はなかった。

「そういうのを体験できる場所、こっちにもあるし」

少女はあっさり答える。

「…」

「なおさら出る意味なさそう」

少女は、やれやれといった様子で結論づけた。

「…そうか」

完全に言い負かされた。

その時

「ほら、行くわよ!」

フランネルから、まるで助け舟のように声が飛んできた。

「!」

これ幸いと、少女から離れる。

「ごめん。そういうわけだから。またね」

少女へ軽く手を振り、フランネルのもとへ駆けていった。

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