感謝
「…というわけなの」
スピレアは、自分が旅に出ることになった理由を話し終えた。
ただ、母親がアインシュ族であるってことは伏せていた。
「…そうだったのね」
「…そうだったのか」
グラッドとルドベックが、暗い表情でぽつりと呟く。
「黙っててごめんなさい!」
ガラケーから、スピレアの必死な謝罪の声が聞こえてくる。
「気にしなくていいわよ。それより、ご両親とは無事に会えたのね?」
ルドベックは黙り込んでしまったため、代わりにグラッドが答える。
「うん! ちょっと痩せちゃってるけど、元気だよ!」
スピレアの明るい声が返ってきた。
「そう」
グラッドは、安心したように短く答える。
「フランネルの案内で、アタシたちもそっちへ向かうから。それまでは、家族の時間を過ごしていなさい」
そう言って、優しく微笑む。
「うん、分かった。ここで待ってるね」
「ええ。待っててちょうだい」
グラッドが答えると、フランネルへ視線を向けた。
「もう、終わりでいいのね?」
フランネルがグラッドのもとへ歩み寄りながら尋ねる。
そして、手を差し出した。
「ええ。ありがとう」
グラッドは礼を言って、フランネルへガラケーを返した。
「それじゃあ、あなたの仲間は私が責任を持って連れて行くわ。それじゃあね」
フランネルはガラケー越しにスピレアへ声をかける。
「うん。またね」
「ええ」
それを最後に、フランネルは通話を切った。
「それじゃあ、行きましょうか」
フランネルがそう言って歩き出そうとした、その時だった。
「待ってちょうだい」
グラッドが呼び止める。
「なによ? まだ何かあるの?」
フランネルが振り返り、少し面倒くさそうに尋ねる。
「スピレアのこと、本当にありがとう」
グラッドは深々と頭を下げた。
「ナルシサスちゃんだったかしら? あなたもありがとう」
続けてナルシサスへ向き直り、もう一度頭を下げる。
「ありがとう」
「感謝する」
少し遅れる形で、ルドベックと一緒に頭を下げた。
「気にしなくていいわよ。それがフランちゃんたちの役目だから」
フランネルは照れくさそうに笑いながら、ぶっきらぼうに答える。
「俺様は、フランちゃんの命令に従っただけだ。だから、礼などいらん」
ナルシサスは、さも当然のことのように言った。
「それじゃあ、今度こそスピレアのところまで案内するわ」
フランネルが、いそいそと歩き出そうとする。
「待ってちょうだい」
またしてもグラッドが呼び止めた。
「今度は何よ…」
フランネルが困惑したように振り返る。
「せっかくだし、この素敵な街を案内してくれないかしら?」
グラッドが突然、そんなことを言い出した。
そして、こちらを見る。
「ね? アスターちゃん?」
そう言って、ウインクを飛ばしてくる。
「…っ」
咄嗟に、ウインクから逃げるように顔を逸らした。
グラッドが不満そうな表情を浮かべて何かを言おうとした時
「待て! スピレアの無事は確認したが、すぐに迎えに行くことに変わりはないだろ!」
ルドベックが、グラッドの提案に反対する。
「せっかく、何年ぶりかにご両親と会えたのよ?」
グラッドは余裕のある笑みを浮かべる。
「少しくらい長く、家族の時間を過ごさせてあげてもいいんじゃないかしら?」
「…それもそうか」
ルドベックは少し考えたあと、気まずそうに視線を落とす。
「すまない」
どうやら納得してくれたらしい。
そのやり取りを見ていたフランネルが、ふっと笑う。
「じゃあ、案内するから着いてきてね」




