通話
「ちょっと待っててね…」
フランネルはそう言うと、ガラケーを操作し始めた。
慣れた手つきでいくつかボタンを押す。
やがて、誰かと話し始めた。
「…何をしているんだ?」
ルドベックが訝しそうにフランネルを観察する。
「スピレアに電話しているんじゃないかな?」
「電話とは何だ?」
さらっと答えたものの、ルドベックには伝わらなかったらしい。
「…」
また説明しなければならないのか。
正直、面倒だ。
「ちょっと待ってたら分かるよ」
「そうなのか…?」
適当に答えると、ルドベックは首を傾げながらも、それ以上は追及せず、フランネルの様子をじっと観察し始めた。
すると、グラッドが何かに気づいたように尋ねてくる。
「アスターちゃん。フランネルたちは、敵じゃないのね?」
「…言っていることが本当なら、スピレアの敵ではないはず」
パウロであれだけのことをしたフランネルたちを、味方と呼ぶのは難しい。
かといって、敵だと言い切ることもできない。
そんな複雑な気持ちを抱えたまま、歯切れの悪い答えを返す。
「そう。なら、良いわ」
グラッドはそれ以上追及せず、その言葉を受け入れてくれた。
その時だった。
「繋がったわよ」
フランネルがガラケーをこちらへ向ける。
「えっと…話したらいいんだよね?」
ガラケーから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「スピレア!」
「スピレア!」
グラッドとルドベックが同時に反応する。
二人とも、すぐさまフランネルのもとへ駆け寄った。
「ちょっと、近いわよ」
フランネルが迷惑そうな顔をする。
「これ渡すから、少し離れてちょうだい」
そう言って、グラッドへガラケーを差し出した。
「あれ? グラッドさんとルドベックの声が聞こえる?」
ガラケーから、スピレアの不思議そうな声が響く。
「おい! これはどうしたらいいんだ?」
ルドベックが、すかさずフランネルを睨みつける。
「ただ話せばいいのよ」
フランネルは、何でもないことのように答えた。
「ただ話せばいいと言われても…」
グラッドが困惑したようにガラケーを見つめる。
「えっと…私の声って、二人に聞こえているんだよね?」
スピレアが戸惑いながら尋ねる。
「聞こえているわよ!」
「聞こえているぞ!」
グラッドとルドベックが、ほぼ同時に大声で答えた。
「うわっ! 急に大声出さないでよ!」
スピレアの驚いた声が返ってくる。
「…ごめんなさい」
「…すまない」
二人は揃ってガラケーへ頭を下げた。
「ふふふっ」
その様子がおかしくて、思わず笑いがこぼれる。
「何してるんだよ、二人とも」
笑いながら、二人のもとへ近づいていった。
「あれ? アスターの声も聞こえる?」
スピレアの不思議そうな声が返ってくる。
「いるよ。それで、スピレアは無事なのか?」
今、一番確認したかったことを尋ねる。
「うん、無事だよ。心配かけちゃって、ごめんね」
申し訳なさそうな声が返ってきた。
「無事だそうだ」
グラッドとルドベックを振り返り、少し得意げに言う。
「無事と言われても、スピレアの声を真似しているだけかもしれないじゃないか!」
ルドベックが即座に食いついてくる。
「落ち着けって」
ルドベックをなだめながら、ガラケーへ話しかける。
「じゃあ、スピレア。この二人に、本物だって分かるような昔の話でもしてあげてよ」
「えぇ? 急に言われてもなぁ…」
スピレアの戸惑った声が聞こえてくる。
しばらく考え込むような間があった。
「…そうだ!」
突然、スピレアの声が明るくなる。
「グラッドさんのところに、毎日のようにいろんな傭兵団がスカウトに来て、バルダックが大騒ぎになった話は?」
「…」
グラッドの表情が固まる。
「…本物のようね」
少し気まずそうに、小声で呟いた。
「あと…騎士団から、ルドベックが全然休みを取らないって苦情が来て、ご両親が騎士団に謝罪するためにパウロへ行った話とか?」
スピレアの次なる暴露が始まる。
「…本物だな」
ルドベックも、気まずそうに小声で呟いた。
「他にはないのか?」
二人の反応を見ているうちに、悪戯心に火がついてしまった。
自然と口元が緩み、我ながら嫌な笑みを浮かべる。
「えー、他に? そうだなぁ…」
スピレアが記憶を探るように唸る。
「もういいわよ!」
「もういい!」
グラッドとルドベックが、ほぼ同時に叫んだ。
「うわっ! だから急に大声出さないでよ!」
スピレアの驚いた声が返ってくる。
「…ごめんなさい」
「…すまない」
二人は揃って反省する。
「スピレア、ご両親のことを二人にも話してくれる?」
せっかくの面白い機会だったのに、と少し残念に思いながら、話題を本題へ戻す。
「…うん。分かった」
スピレアの声から、先ほどまでの明るさが消える。
少しの沈黙。
そして、意を決したように、スピレアは自分の両親が捕らえられていたことを話し始めた。




