着岸
「…噂は本当だったようね」
しばらくジェットボートでの楽しいマリンスポーツを満喫していると、地図を眺めていたグラッドがぽつりと呟いた。
「どういうこと?」
ハンドルを握ったまま、首だけを振り返ってグラッドを見る。
「アタシが間違えていなかったら、あんなところに島なんてないわ」
グラッドは目を細め、前方を指差した。
その指先へ視線を向ける。
霧が立ち込めているせいではっきりとは見えない。
それでも
薄っすらと、島のような巨大な影が浮かび上がっていた。
「…島か?」
思わず呟く。
「…どうなっているんだ…?」
ルドベックが頭を抱え、困惑したように呟いた。
今まで信じてきた教典。
そこに記されている世界の在り方。
それらを根底から覆すような光景を前に、ルドベックは言葉を失っている。
「…気にしていても仕方ないだろ?」
そんなルドベックの様子が少し可哀想に思えて、同情する。
今まで信じてきたものに裏切られるのは、辛いよな。
その同情の言葉はグッと飲み込んだ。
「行くぞ!」
目の前の島を見据える。
自然とハンドルを握る手に力が入った。
そして、ジェットボートの速度を一気に上げる。
「…なぁ、これってどうやって止まると思う?」
ハンドルは自転車やバイクのような形をしている。
しかし…
ブレーキらしきものが見当たらない。
そして、目の前に砂浜が迫ってきたところで、ある致命的な問題が頭をよぎった。
「…」
嫌な予感がする。
「なぁ、どうやって止まると思う?」
恐る恐る二人に尋ねる。
「…知らないわよ?」
グラッドが引きつった笑みを浮かべた。
「まさか…」
ルドベックの顔がみるみる青ざめていく。
「止まり方が分からないとでも言うのではないだろうな?」
「…」
気まずい沈黙。
とりあえず、目の前にあるボタンを押してみる。
ピッ。
ブーッ!
「うわっ!」
警笛が鳴り響く。
しかし、速度は一向に落ちない。
「貴様! ふざけている場合か!」
ルドベックの怒声が飛んでくる。
「俺が知っている構造と違うんだよ!」
慌てて言い返す。
その時
「ぶつかるわよ!」
グラッドの叫び声が響いた。
「えっ?」
目の前には砂浜。
「ちょっと、待ってくれよ!」
グラッドとルドベックは、砂浜へ突っ込む直前にジェットボートから飛び降りた。
そして
ザザザザッ!
ジェットボートが砂浜へ突っ込む。
「うわあああああ!」
飛び降りるタイミングを完全に逃した。
そのままジェットボートから、砂浜の先にある茂みへと勢いよく投げ出される。
バキバキバキッ!
枝が次々と折れる音が響く。
幸い、茂みがクッションになってくれたおかげで、何とか勢いを殺すことができた。
「いててて…」
身体のあちこちに擦り傷を作りながら、茂みから這い出す。
そして、ふらふらと立ち上がった、その時
「…何やってんのよ…」
聞き覚えのある、呆れ果てた声が聞こえた。
「…え?」
顔を上げる。
そこには、腕を組んでこちらを見下ろすフランネルが立っていた。




