故郷
本日17時に『私達の愉快な冒険譚』という、リリー、アイリス、ローレルの三人の旅を描いた短編を投稿しました。
三人での初めての戦いや野営、夜空に咲く魔法、そして小さな漁村での釣りや宴会など、三人の楽しい旅の思い出を描いています。
本編とは少し違った、三人の穏やかな旅の一幕を楽しんでいただけたら嬉しいです。
「それにしても、何も知らないのにここを抜けようとするなんて、無謀じゃない?」
少女が呆れたように尋ねてくる。
「そうなのか?」
「そうだよ。ここって、ジャンキーとか犯罪者とか…ヤバい人が結構いるんだから」
少女はケラケラと笑いながら、この場所について説明してくれた。
「そんな劣悪な環境に、なぜ住んでいるんだ?」
ルドベックが横から口を挟む。
「ここが、うちの故郷だからだよ」
「…こんなところが?」
ルドベックは思わず眉をひそめ、辺りを見回す。
「そう。『こんなところ』がだよ」
少女は少しムッとしたように、言葉を強調して返した。
「…出ていこうとは思わないのか?」
ルドベックが少し間を置いて尋ねる。
「出ていく、かぁ…」
少女は困ったように呟いた。
「そうだ。君はまだ若い。騎士団も支援を行っているんだ。ここを出ることだってできるだろう」
ルドベックは、少女を助ける方法を見つけたとばかりに言葉を重ねる。
「ないかな」
少女は、きっぱりと首を横に振った。
「なぜだ! 出ていけない理由でもあるのか?」
予想外の答えに、ルドベックが声を荒らげる。
「出ていけない理由はないよ」
少女は淡々と答える。
「ただ…ムカつくから出ていかない。それだけ」
「ムカつく?」
ルドベックが眉をひそめる。
「そそ」
少女は肩をすくめた。
「だってさ。外の人たちって、ここにいる人をみんな不幸だと思ってるじゃん」
少女は少しだけ頬を膨らませた。
「『助けてあげます』って顔で来るんだよ。こっちが何も知らないみたいに」
「…」
ルドベックは、何も言わずただ少女の話に耳を傾ける。
「もちろん、本当に困ってる人もいるよ。でも、みんながそうじゃない」
少女はそう言って、肩をすくめた。
「ここで生きてる人だって、自分で選んでここにいる人はいるんだから」
「…そうか」
ルドベックは俯いた。
「…すまなかった」
小さな声だった。
「ううん。いいよ」
少女は首を横に振って、振り返る。
「だから、勝手に決めつけないでよね」
そう言って、少女は少女らしい無邪気な笑顔を見せた。
誰一人として、言葉を返せなかった。
「うーん…この辺だと思ったんだけどなぁ?」
少女はそんなこちらの様子を気にすることなく、周囲を見回す。
「あっちかな?」
そう呟くと、
「ちょっと待っててね!」
少女は軽い足取りで駆け出していった。
「おばちゃん! 白い髪の人たち、見なかった?」
「…分かった! ありがとう!」
「おじいちゃん! 白い髪の人たち、見なかった?」
「…えっ、本当に? ありがとう!」
少し離れたところから、少女の元気な声が聞こえてくる。
どうやら、周囲の人たちに聞き込みをしてくれているらしい。
しばらくすると、
「お待たせ~!」
少女が笑顔で手を振りながら、小走りで戻ってきた。
「どうだった?」
「うん。この先の扉から出て行っちゃったみたい」
少女は少し申し訳なさそうに、路地の先にある扉を指差した。
顔を見合わせる。
言葉を交わす必要はなかった。
三人で小さく頷くと、すぐさま扉へ向かって駆け出す。
その途中、
「受け取れ」
ルドベックがぶっきらぼうに呟いた。
そして、自分の財布を少女へ向かって放り投げる。
「えっ?」
少女は慌てて受け取ると、驚いたように財布を開いた。
「こんなにもらっていいの?」
「気にするな。礼と…先ほどの詫びだ」
ルドベックはそれだけ言うと、少女から視線を逸らした。
「そっか…」
少女は財布を大切そうに抱える。
そして、すぐに少女らしい明るい笑顔を浮かべた。
「じゃあ、また来てね!」
少女は大きく手を振る。
「その時はサービスするから!」




