指針
「行くと言っても、どうやって向かうんだ?」
ルドベックが疑わしげな視線を向けてくる。
「さあ? そこは皆で考えようよ」
行く方法までは思いついていなかったので、正直に答えた。
「はぁ…。貴様に期待した私が馬鹿だった」
ルドベックは深いため息をつき、肩を落とす。
「でも、おかげで少しだけ冷静になれた」
そう言って、わずかに口元を緩めた。
…感謝している、ということなのだろうか。
そんなことを考えて首をかしげていると、
「…行く方法ならあるわよ」
今度はグラッドが静かに口を開いた。
「考えてもみなさい。アインシュ族は、どうやってあの島とパウロを行き来していると思う?」
「どうやってって…ボートじゃないのか?」
エヒメアへ向かう途中で見かけた、アインシュ族のジェットボートを思い出しながら答える。
「そう。そのボートを奪えばいいじゃない」
グラッドは得意げな笑みを浮かべた。
「おお!」
思わず感嘆の声が漏れた。
「反対だ!」
しかし、ルドベックが即座に声を張り上げる。
「機械を使うこと自体、教典に反する!」
一歩も譲る気はないらしい。
「そんなに教典が大事なのか?」
理解できずに問い返す。
「当然だ。教典には、人が正しく生きるための道が記されている。それを軽んじるなど、許されることではない」
ルドベックは迷いなく言い切った。
「…スピレアの命よりも?」
その一言に、ルドベックの表情が固まる。
「それは…」
返す言葉が出てこない。
グラッドと顔を見合わせ、小さく頷いた。
「だったら、決まりだな」
「しかし…」
なおもルドベックは食い下がる。
「相手がアインシュ族だからといって、盗めば犯罪だぞ」
「男なんだから、細かいこと気にしちゃ駄目よ。それに、散々襲われているのだもの少しくらいは、ね?」
グラッドはあっけらかんと笑う。
「でも、ボートを拝借すると言っても当てはあるのか?」
一番気になっていたことを尋ねる。
「停泊場所までは分からないわ。でも、アインシュ族が身を潜めていそうな場所なら心当たりがあるわよ」
グラッドは自信ありげに微笑んだ。
「本当か! どこなんだ?」
期待を込めて身を乗り出す。
グラッドは街を囲む高い内壁へ視線を向けると、その向こうを指差した。
「…スラム街よ」




